■はじめに

労働人口が減少している中、優秀な従業員の確保や能力の向上によって、業績を維持・向上させることは、大企業のみならず中小企業においても重要な課題である。
多くの中小企業が対応に苦戦する中、ユニークな取り組みにより組織を活性化させ、業績を向上させている中小企業も存在する。今回、そうした企業を直接取材し、その実態に迫った。

■株式会社オハラ

同社は石川県金沢市に本社を持つ、資本金8,000万円の中小企業である。事業内容は、くずきり、ゼリー、プリン、農産物加工品、などの食品製造販売である。
同社で実施している人材不足を補うユニークな取り組みを、①量の確保と②質の向上の2つの観点から取り上げる。

① 量の確保~中核人材のシェアリング
同社では、異種の食品製造メーカーと人材交流を図ることによって、繁忙期の人手不足の解消と組織の活性化を図っている。夏場に売れる通販向けの「くずきり」や「ゼリー」が主力商品であるが、最近では、夏~初秋までに行う農産物の加工依頼も年々増えてきているという。しかし、冬場に売れる商品の取り扱いが少なく、繁忙期と閑散期の差が激しいため、稼働率の平準化が長年の課題となっていた。
そこで、同じ金沢市の異種の食品製造メーカーと連携し、お互いの繁忙期が異なることを利用して、リーダークラスの人材派遣を実施し人手不足への対応を行った。自社の繁忙期(夏~初秋)では人材を受け入れ、自社の閑散期(秋冬)では人材の派遣を実施した。それによって、夏場の売上が10%も向上したほか、他企業の優秀な社員との人材交流で、自社の従業員が刺激を受け、モチベーションアップにもつながったのだという。

② 質の向上~リーダーシップ、チャレンジ精神の醸成
同社では、努力賞カード制度を導入することによって、リーダーシップとチャレンジ精神の醸成を図っている。努力賞カードは、相手の良いところや努力した行動を讃えるために、従業員が他の従業員に贈る小さな表彰状のようなものである。カードには、相手の名前と良いと思った行動を記載し、専用のポストに投函することになっている。投函した人には2点、受け取った人には1点が付与される。部署横断の5、6人のチームを作り、チーム対抗で点数を競うのだという。自チーム内だけでカードを交換していても点数の伸びに限界が来るので、自然と他チームとも交流を図るようになるのだという。特にチームリーダーは、メンバーに積極的に声をかけたりコミュニケーションを図ることで、リーダーシップが醸成されるだけでなく、他の部署についてもアンテナを張り気に掛けることで、組織全体のコミュニケーションの向上や一体感が生まれるのだという。そして、視野を広く相手のことも思いやるようになり、伴走して一緒にやっていこうという社風ができてくる。これがチャレンジ精神の醸成に繋がるのだという。
同社では、これまで大手取引先のおでん用食材に売上を依存していたが、努力賞カードを始めてから新しいことにチャレンジしようという気運が高まり、加工品事業や通販など、複数の収益の柱ができたことで、事業基盤が強固になったのだという。

<努力賞カード>  <努力賞カード(拡大)> <表彰状>

  

■最後に

中小企業の人材不足への対応策を考える上で、同社の取り組みは模範になるのではないだろうか。労働人口が減少するから従業員を教育して質の向上を図るという論調の対策を良く聞くが、十分とは思えない。同社の取り組みに価値があるのは、他企業との連携で中核人材のシェアリングを行い、従業員の量と質の確保を同時に達成していることである。特に、量の確保において、一般的な採用活動だけにとらわれない、新たな対策を見出したことが秀逸だ。また、こうした対策は機動力のある中小企業ならではの取り組みといえるのではないだろうか。

以上

執筆者プロフィール
東京都中小企業診断士協会三多摩支部所属
中小企業診断士
柳内 茂樹


横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了
大手コンビニエンスストアにて、オリジナル商品向けの原料調達業務に従事。
地産全消をモットーに、商品開発ニーズにマッチした全国各地の農産物を調達。
農商工連携などにも力を入れ、農産物の高付加価値化に貢献。