【労働基準法条文】(抜粋)

第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

5 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

継続的な企業経営にとって、従業員は最大の資産です。従来から、1.毎日働くことが美徳といった日本の労働倫理観、2.職場の仲間に迷惑を掛けたくないといった従業員の仲間意識、3.レジャー施設が不十分、有給休暇買取の制限等の社会的理由により、年次有給休暇の取得率は世界的に低い傾向にあります。更に、4.上司が良い顔をしないので取得辞退するケースもまだまだ存在します。

世界最大級の総合旅行サイト・エクスペディアの日本語サイト、エクスペディア・ジャパン(https://www.expedia.co.jp/)では、毎年恒例の有給休暇の国際比較調査を実施しています。

 

出典:「世界30ヶ国有給休暇、国際比較調査2017」、Expedia Japan

如何でしょうか、有給消化率は調査30ヶ国中最下位(※1)で予想通りと思われたでしょうが、「上司が有給を取ることに協力的か分からない」が最上位とは問題です。どの様な上司の発言がイエローカードになるのかを考えます。

労働基準法39条では、使用者側にも『時季変更権』と言う拒否権が認められています。厳密に言えば、「事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」は任意規定ですので、有給休暇を与える使用者義務に比べると補完的な位置づけになっています。判例や厚生労働省のチラシ等からも、積極的な使用者の権利にはなっていません。

出典:【リーフレットシリーズ労基法39条】、厚生労働省

上記の例示の様に、1.同じ職場で同じ日に複数の労働者が有給休暇取得申請をして、2.使用者側の作業スケジュール変更や代替要員確保を行っても重大な業務停滞が生じ、且つ3.労働者側が時季変更案を了承するという例外的な状況での権利となっています。

即ち、「業務に支障を来すので、有給休暇は来月にしてくれ」は任意なお願いであって、命令や強迫的言動で辞退させればレッドカードとなります。世界的にも、社会的にも「働き方改革」や「ノー残業、休暇取得推進」が叫ばれている中、この様な『人権』への配慮に欠けた企業では、優秀な人材を辞めさせてしまうばかりか、訴訟に発展し、ブラック企業とレッテルを張られ、事業継続が難しくなる場合も考えられます。

私の米国実体験では、

(1)「PTO(Paid Time Off、有給休暇)」は事前に計画していた。

事業部員100人中60人は、ホームオフィス(ボストンの上司が、ロスアンゼルスのSEを管理する)。業務のアウトプットは指導できるが、勤務管理はどのようにするのか不安視していましたが、案外上手くやっていました。特に有給休暇は、「年間業務スケジュール」を年度初めに調整することで「職務記述書」を更新しますので、事前に有給休暇計画を事業部内に公表していました。だから、長期滞在型のバケーションが取れるのです。

(2)退社時に、企業はPTOを全日数買い取らなければならない。

経営会議では、よく「有給休暇買取り引当金」についての議論がありました。
雇用契約は「職務記述書」の業務遂行ですので、昇格、昇給は予定されていません。もっと高度な業務、高給なポジションを求める社員は、退社、転職が基本になります。
わたしの米国子会社では、日本と異なり有給休暇は①時効消滅なしの繰越し累積計算、②退職時全日数買取り(※2)でしたので、会社としては支払い債務を予定するために「有給休暇買取り引当金」を積んでおく必要があったのです。この負債は累積しますので、財務諸表(BS、PL)上は大きな問題でした。従って、「有給休暇取得キャンペーン」や「オフィス・クローズ(会社を休みにして、給与を払う)」などを行っていました。

さて、如何でしょう。日本の判例も先行事例としての米国職場も、会社の正常な業務運営の権利より、従業員の有給休暇取得の権利の方に『権利の天秤』は傾いて来ていますね。
次回、人権ワンポイント講座Vol.3は、最近話題の輸入米語LGBTの解説と日本での今後の対応方法を探ります。

※1;2019年4月から有給休暇の取得義務化
2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法案」により、2019年4月1日から使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日間、時季を指定して年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。
つまり、社員が自ら取得した休暇や、「計画的付与制度」による休暇を合計して5日に満たない場合は、使用者はその残りの日数について社員の意向を聞いた上で、事前に「◯月◯日に休暇を取得してください」と指示をすることが必要になります。
2019年4月以降、最低5日は社員に休暇を取らせないと、会社は労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。

※2;カリフォルニア州では、有給休暇は全て買取り
企業が有給を付与する目的は、あくまでも「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するため」のもの。「お金をもらえるなら休まないで働く」という方法は、本来の目的を逸脱するものになってしまいます。そのため日本では、有給休暇の買取りは原則認められていません。
しかし、アメリカの場合には、例えばカリフォルニア州では、時効にかかる有給はすべて買取らないといけないと決まっており、有給がたまると企業は引当金を積む必要があります。長期勤務者の場合には有給休暇残高が100日以上ある計算になってしまうことが多々あり、それを退職時の給与ベースで支払うとは、企業にとっては非常に大きな金額負担になることになります。