補助金や行政支援の申請時など、事業を行うなかで外部関係者に会社の計画を提出する機会は結構あるかと思いますが、特に金融機関への融資申込に際して計画を提出する場合、ハードルが高いと感じる事業者の方は多いと思います。そこで、今回は、「必要性と許容性」という若干耳慣れない目線から、金融機関が計画のどこを見て計画の是非を判断しているのか、考えてみたいと思います。

1.「必要性と許容性」とは

 これは、主に法律の世界で用いられるもので、法の文言通りに当てはまらない事象などの法解釈の際に、「そのように解釈すべき社会的要請等があるか(必要性)」「そう解釈しても法令に違反しないか(許容性)」という2つの目線から、双方満たす場合に初めて解釈可能とする考え方です。車に例えれば、「必要性」がエンジン、「許容性」はブレーキやハンドルに相当し、双方揃って初めてまともに走るというイメージでしょうか。この考え方は、法律のみならず、相反する利害対立下での是非判断に広く「使える」切り口です。

2.計画の是非判断における「必要性と許容性」

 実は、金融機関の担当者が審査部門と協議を行う際にも「必要性と許容性」は問われます。貸した金が必ず返済される保証はない一方、原資は預金者から集めた預金(返せませんはあり得ない)であり、そこに「相反する利害対立」があるからです。計画提出後に担当者からあれこれ質問がなされることがありますが、これを説明するための材料を集めているのです。
 では、金融機関が会社の計画の是非判断をする場合の「必要性と許容性」とは、どういったものでしょうか。

(1)必要性

 必要性は、「当該計画の事業・投資や借入が本当に必要か」という目線で、資金使途や所要金額が該当します。設備資金であれば、そもそも当社にとって、当該事業や設備投資がなぜ必要なのか、なぜその投資規模なのかを説明できる必要があり、運転資金であれば、月間の販売・仕入額やサイト、在庫水準を根拠に所要金額を説明できる必要があります。

(2)許容性

 許容性は、「当該計画に資金対応して大丈夫なのか」という目線です。➀事業者の経営体力、②計画自体の許容性、③資金対応に際しての保全状況等が、これにあたります。
 ➀については、事業者の資産背景(現預金・有価証券や不動産、中小企業では経営者の個人資産も)や、経営状況(直近数期の損益状況や実質純資産の水準)が挙げられます。計画自体とは直接関係ない部分ですが、この良し悪しで、計画の許容性判断のハードルが上下することもあります。
 ②については、販路が確保されているか、計画の前提に無理はないか等の事業面での実現可能性のほか、返済原資が確保されているか(設備資金なら、運転資金以外の他の借入金も含め毎期のキャッシュフローで10年内に返済可能かが一つの目安。運転資金なら、月中の資金繰りが確実に回るかがポイント)、仮に計画が下振れた場合にも経営の継続性は確保可能か(ここで➀の視点が効いてきます)といった点が挙げられます。さらに、赤字(金融機関でいう「要注意先」)や債務超過(同じく「破綻懸念先」)の場合は、一定期間内(5年や10年)での解消が可能かという点も考慮されます。
 ③については、➀②の補完として、担保や保証により計画が下振れた際にも返済が一定程度確保される、という点が挙げられるでしょう。

(3)判断

 「必要性」があっても「許容性」が認められないと、資金対応は難しくなります。事業者の立場からは「必要性」に関心が集中しがちなのは理解できますが、「許容性」にも目配りができていると、金融機関での「通り」は圧倒的に良くなります。 また、「許容性」以前に「必要性」が説明できない場合も資金対応は難しいです。担当者が計画の根拠について質問すると、「ウチは資産背景もバッチリなんだから、そんな細かい話聞いてくるな!」とおっしゃる社長さんもおられますが、金融機関の判断としては「必要性」「許容性」のどちらも必要であることをご理解いただきたいと思います。

3.「必要性と許容性」を経営に活かす

 以上、金融機関目線での「必要性と許容性」を見てきましたが、この考え方は事業を進めるうえでの種々の経営判断の局面でも非常に役に立ちます。例えば、内部要因・外部環境から取組むべき方向性を導き出す「SWOT分析」という手法がありますが、W(弱み)やT(脅威)への対策は正に「許容性」のレベルを上げる取組といえます。「必要性」だけではなく、常に「許容性」にも配慮して経営判断を行っていくことで、経営判断の「体幹」が強化され、万が一想定通りの展開にならなかった際にも、改善対応や次善策を打ちやすくなります。
 「必要性と許容性」の目線を、ご自身の経営の中でもご活用いただき、より筋肉質な経営体質を作り上げていただけますと幸いです。

執筆者 山村知毅   中小企業診断士 農業経営アドバイザー