知らないと命とり!中小企業のためのリスクマネジメント(4)

~お金をかけずに業績もアップ、一石二鳥の経営術~

4回にわたり、中小企業のための「リスクマネジメント」について、説明させていただいております。今回は最終回です。これまでの記事はこちらをご覧ください。

(1)なぜ、中小企業にも「リスクマネジメント」は必要なのでしょうか?

(2)中小企業のリスクマネジメントにかかわる問題点

(3)これぞ一石二鳥の経営術!事業経営の計画に「リスクマネジメント」を織り込もう

(4)ちょっと待った!経営戦略とリスクマネジメントとはどのような関係があるの?

以下の図表をご覧ください。ISO31000の定義ではリスクとは「目的に対する不確かさの影響」であり、プラス・マイナス両方の影響を含む概念となっています。通常、プラスの影響を事業機会と呼ぶことが多いです。

一般的に企業は、短期・中期的にプラスの影響を生かしマイナスの影響を回避・削減する行為を経営戦略として策定し事業計画を立てていると考えられます。また、長期的なマイナスの影響を回避・予防する行為をリスクマネジメントで扱っていると考えられます。いずれにせよ、両者ともリスクへの対応という意味において同じことをしているのです。

 

次の図表は、一般的な戦略策定プロセスとリスクマネジメントを対比したものです。両者の使っていることばは違いますが、一連のプロセスはほぼ同じであることに気が付きます。

リスクの認識と、経営環境の分析とはほぼイコールです。ただ、通常の短期・中期を対象とする経営環境の分析では、地震や異常気象のような大きなマイナス要因を含めません。しかし、長期的な時間軸のなかでは、このような出来事も想定する必要があります。

リスクマネジメントでは、事業目的を確認します。なぜなら事業目的を阻害する要因、かい離する要因がリスクだからです。これは戦略策定のプロセスでは事業ドメインを確認することと近い考え方です。

重要リスクを選定し、これに対してリスク戦略やリスク対応計画を立てることも事業戦略や事業計画を策定するプロセスとほぼ同じです。マネジメントの方法として、PDCAサイクルを回すという意味で全く同じなのです。

こうしたことから、経営戦略の策定もリスクマネジメントも経営環境の変化に対応するという点で本質は同じということができると思います。したがって、事業計画の時間軸と範囲を広げることで両者を一体として取り扱うことが可能となります。

つぎに通常の事業リスクと戦略リスクの関係について述べます。以下の図表は戦略リスクの概念を示したものです。

 

通常われわれは、中短期的な営業計画や事業戦略を策定する際に、売上高や利益の金額を算出します。この数値は、未来の数値なので、一定の発生確率のもとに想定される期待値と考えられます。期待値ですから、当然一定のブレが想定され、想定管理限界が設定されます。

こうしたブレは、統計学的には偏差と呼ばれ、過去のデータなどから統計的に導いたりします。例えば、過去5年のデータによれば、当月の売上高はだいたい期待値の10%前後で収まるといった感じです。

この想定管理限界の範囲内で実績と計画を対比し、当初の計画より上ブレ、下ブレした原因を分析します。そうそう、これは予実管理(予算と実績を比較・分析すること)と呼ばれていますね。基本的な戦略は変えることなく、オペレーションレベルでの戦術の変更によって今後の対応が可能となります。

しかし、あるとき想定管理限界を超えた実績が発生したとします。これは、「予期せぬ成功や失敗」であり、当初の戦略では対応できない経営環境の変化がおこったことを意味しています。例えば、商圏内に競合店が参入してきたとか、顧客の志向が大きく変わったとか、ということです。

このとき、経営環境の変化の要因を分析することが重要です。なぜ当初の想定から実績がかい離したのか分析します。この当初の想定からのかい離こそが、「戦略リスク」なのです。

「戦略リスク」のうち、プラスの影響である「予期せぬ成功」はイノベーションの源です。小さな成功をイノベーションの機会ととらえ、事業を大きく成長させていくことが考えられます。

一方マイナスの影響である「予期せぬ失敗」は、よく「想定外の失敗」などといわれているものですね。現状のリスクマネジメントでは、こうした事業リスクの想定を超えたマイナスのリスクを取り扱っています。

ただ、あまり難しく考える必要はありません。自社の状況に応じてやり易い方法を考えることが重要なのです。

 

おわりに

少しは「リスクマネジメント」の本質、面白さ、重要性をご理解いただけたでしょうか。

疑問・質問等ござましたら、お問合せフォーム(http://minpro.tokyo/inquiry/)よりお気軽にお問い合わせ下さい。お待ちしています。

 

執筆者

藤田 泰宏

総合商社の食料本部に26年間勤務し、米麦の輸入・小麦粉のアジア諸国向け輸出、タイ・中国等での食品加工工場の管理、食品原材料の国内営業、食料本部の経営企画、米国ポートランド、ヒューストン駐在の経験あり。リスクマネジメント、BCPの導入にも詳しい。2015年6月より独立中小企業診断士として活動している。

保有資格
中小企業診断士

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