働き方改革、副業規定見直し

【就業規則】
「従業員は、会社の許可なく会社以外の業務に従事してはならない。」

8割強の企業が採用している副業制限規則ですが、働き方改革の流れを受けて、見直されるかも知れません。政治・行政の動き、企業の対応、そして判例の動向を整理してみました。

1.政府、行政の動き

政府は「働き方改革」の一環として、正社員の副業や兼業の検討に入っています。安倍首相も、副業や兼業について「普及は極めて重要だ」と発言しており、少子高齢化の中、労働力不足を補い、職業能力の向上で成長産業への雇用の流動化を促すため、一つの方策と考えているようです。

(1)副業・兼業の推進に関するガイドライン骨子、厚労省

【企業のメリット】

① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
② 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
③ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

【労働者のメリット】

① 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
② 本業の安定した所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
③ 所得が増加する。
④ 働きながら、将来の起業・転職に向けた準備ができる。

(2)モデル就業規則改定とガイドライン作成、厚労省

厚生労働省は、「モデル就業規則」を年度内にも改定する検討に入りました。改定する規則に、原則的に副業や兼業を認める規定を盛り込みます。

①同業他社に企業秘密が漏洩する恐れがある
②長時間労働につながる
など、例外的に副業が認められないケースも併記し、企業や社員が判断しやすいようにします。

次に、政府指針(ガイドライン)を来年度以降につくります。
①社会保険料や残業代をどの企業が支払うか?
②労働災害の原因はどの企業か?
の基準をまとめる予定です。
そして、人材育成のあり方を、これからまとめる成長戦略に明記します。
下記に示すように、政府としては2020年~2021年を目途に普及を図る計画です。

<副業推進に向けたガイドライン策定、モデル就業規則改定スケジュール>

出典:「副業・兼業の現状と課題」厚労省

2.企業の対応

それでは、企業(使用者、労働者)は副業・兼業のメリット・デメリットをどのように捉えているのか、その期待と不安を整理してみます。

 <企業、従業員にとっての副業・兼業のメリット・デメリット>

出典:「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」
~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~
中小企業庁経営支援部

 

(1)使用者の期待と不安

≪期待≫

①人材育成;
従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得し、それを社内で活かすことで労働生産性が高まる。

②優秀な人材の獲得・流出 防止;
本業の会社を辞めることを求めなくて済むため、結果として個人事業(自営)や自身で会社を起業・経営するような優秀な人材 を獲得することができる。

③新たな知識・顧客・経営 資源の獲得;
従業員が社外から新しい知識・情報、人脈などを持ち帰ることで事業機会の拡大、イノベーション創出につながる。

<不安>

①本業への支障;
長時間労働による従業員の心身への影響や生産性の低下など本業への支障が懸念される。

②人材流出等;
人材流出のリスクが高まる可能性がある。

③従業員の健康配慮;
従業員の就業時間外の活動について責任所在が不明瞭のため、「企業の管理範囲外」と整理したとしても、万が一の場合に は責任追及される法的・風評リスクがある。

④情報漏洩等、様々なリスク管理;
業務上の秘密漏洩や企業の信用毀損、本業との競業による損害発生等のリスクが高まる可能性がある。

(2)労働者の期待と不安

≪期待≫

①所得増加;
本業以外で所得を得ることができる。

②自身の能力・キャリア選 択肢の拡大;
社内では得られない知識・スキルを獲得できる。社外人脈を拡大することで自分自身のキャリアを開発できる。社外でも通用する知識・スキルを研鑽することで労働・人材市 場における価値が向上する。

③自己実現の追求・幸福 感の向上;
本業で安定した所得があることを活かして、自分のやりたいこと(社会貢献活動、文化・芸術的活動等も含む)に挑戦・継続できる。

④創業に向けた準備期間 の確保;
働きながら将来の起業・転職等に向けた準備・試行ができる

<不安>

①就業時間の増加による 本業への支障等;
本業で兼業・副業が禁止されている、あるいは禁止されていなくても兼業・副業が難しい状況である。本業の時間に制約ができるため、短期的には100%以上の成 果を出しにくくなり、本業における評価が低くなる可能性がある。兼業・副業をしていることで、職務専念義務、誠実労働義務が疑われ、本業における信用を失う可能性がある。

②本業・副業間でのタスク 管理の困難さ;
本業・副業間でのタスク管理が難しく、業務バランスの維持が難しくなる。

(3)先行して、副業・兼業を解禁している企業例

使用者、労働者共に副業・兼業への期待と不安の中にありますが、新事業創出を目指す企業においては、社外の新しい知識、資源を積極的に取り入れる「オープンイノベーション」の考え方が求められるようになってきています。
技術革新スピードが加速化する中、自社独自の知識、資源を活用するだけではイノベーティブな製品・サービスを創出することは難しくなりつつあります。
従業員の兼業・副業を促進することで、新たな事業機会が生まれる可能性を期待して、試行的に副業・兼業を解禁する企業が出てきています。

  • ソフトバンク;許可制で1万7千人の全社員が対象、2017/11導入
  • DeNA;上司と面談の上決める、2017/10導入
  • ロート製薬;勤続3年以上の正社員が対象、2016年導入
  • サイボウズ;2012年から、一定の条件を見たせば副業申請不要
  • ヤフー;創業時から、許可制で数百人規模の社員が副業許可
  • レノボJapan;2千人の社員に副業推奨
  • コニカミノルタ;副業申請時に、本業と合せた見込み労働時間を提出

3.判例の動向

就業規則にある、『会社の許可』はどの様な場合に副業を許可されるのでしょうか?
判例から見ると、余程の事由でない限り、無許可副業一発で懲戒を出す事は会社側の”懲戒権の乱用”になります。また、憲法で「職業選択の自由」が保障されている中、就業規則と言えども、憲法を越えて一律に副業規制をかけることは難しいと言えます。

従って、会社が”社会通念上相当”として『副業を不許可』とする理由として合法性が認められるのは、
①会社での労務提供に支障を及ぼす場合
②企業の秩序に影響を及ぼす場合
に限られます。

判例からは、以下のようなケースが該当します。
(1)副業のために遅刻や欠勤が多くなったと判断される場合
(2)競合する他社でのアルバイトなど、会社の利益が損なわれる場合
(3)会社固有の技術やノウハウが漏洩されると判断される場合
(4)会社の名前や名刺を使って副業を行なう場合
(5)違法な仕事をして会社の品位を落とす惧れがある場合(風俗関連など)

4.まとめ

現在、8割強の企業が副業・兼業を就業規則で制限しています。
解禁は容易ではありませんが、働き方改革や成長戦略に合わせて政府・行政主導で議論されており、注視していきたいと思います。

執筆者

向井実
中小企業診断士、行政書士