助成金を使うことに挫折した社長へ
助成金に関して提案・実務などで企業にお伺いすると「お金は出るけど書類作成とか面倒くさいよね」「役所に聞きに行ってもよくわからなかったんだよね」という声をよく聞きます。今回は、「助成金の手続きは、なぜ面倒でわかりにくいのか?」、そして「そもそも国はなぜお金を出すのか?」をお伝えしたいと思います。
1.助成金とはどういうものか
国や地方自治体が用意する金銭支援メニューには大きく分けて助成金と補助金とがあります。一般的には、以下、(1)が助成金、(2)は補助金と言われます。(本コラムでは、雇用関係の助成金を助成金とします。)
(1)雇用や人材育成関連の金銭支援(厚労省が所管し雇用保険料が財源)
(2)事業拡大や設備投資関連の金銭支援(経産省や地方自治体が所管し税金が財源)
2.経営者は助成金をどのように考えるべきか
私は助成金を申請したことがない社長には「助成金メニューが用意されている=会社と社員の関わりをこうして欲しいというリクエストを国が出している」ということだと伝えています。国からのリクエストを叶えるために会社が行った「取り組み」と出した「成果」に対してお金(助成金)が出されるのです。
助成金の多くは「①計画申請 → ②計画認定 → ③実行 → ④報告 → ⑤報告認定 → ⑥助成金入金」という流れで進んでいきますが、このように、お金は出るけど面倒(=書類作成が手間)なのは、しっかり取り組んで成果を出したことの報告(=証明)をしないといけないからなのです。
たとえば、手間がかかる書類作成の最たる例が、人材育成関係の助成金に多く見られる業務日報の作成です。日報作成は、会社が事前認定を得たカリキュラム(=計画)に基づいて社員への教育を行い、その結果として、社員が新しい知識・技能を習得したことを報告するためのものです。提出された日報を見て、国は助成金の政策目的(=国からのリクエスト)がきちんと実施され成果を上げているかきちんと判断しているのです。
3.時代の流れを映す助成金
助成金は社会情勢や与党の政策を反映し、「新設・統合・廃止」や「運用スタンスの変更」を繰り返します。たとえば、新型コロナウイルス感染症によって景気が急激に悪化している現状では、「失業者を増やさない」という政策目的のために「雇用調整助成金」という助成金の要件が緩和され大判振る舞いになっています。助成金を見ると、世の中の課題・問題点がよく反映されているなと感じます。
4.助成金をもらうために日々やるべきこと
応募期間の制限や審査で採択される必要がある補助金と異なり、助成金は、受給条件に該当し、必要な手順を着実に踏んで行けば高い確率でもらうことが可能です。
しかし、その反面、労働基準法など労働関係の諸法令を遵守する必要があるため、自社の勝手な解釈で労務管理をしていると、せっかく良い取り組みをし、面倒な書類を頑張って準備したのに助成金がもらえないという結果になってしまいます。
たとえば、私がお伺いする企業でよくあるのが、「法定三帳簿(勤務表・賃金台帳・労働者名簿)が整備されていない」「残業代を支払っていない」などの事例です。貴社の労務管理は自社流でやっていないですよね?
5.では、どうするのが良いか?
私は、助成金を使った取り組みを行うなら国が助成金を通じて実現しようとする会社の姿と、社長が自社をこうしたい・こうあってほしいと思う理想の姿とが合致することが最善であると考えています。
助成金は必ず申請しなければならないという訳ではありません。ですが、取り組みによっては年間数百万円もの助成金を獲得できる可能性があるのですから、助成金の中に、社長が自社をこうしたい・こうあってほしいと思うことと合致するものがあれば取り組んでみてはどうかと提案しています。
ちなみに、以下のようなテーマで何か取組をされるのであれば、助成金を活用できる可能性が高いです。
(1)高齢者・派遣社員・シングルマザー・障害者の採用
(2)社員への教育研修
(3)男性社員の育児休暇取得支援
どうでしょう、ここでも「国からのリクエスト」が垣間見える気がしませんか。
該当するものがありましたら、合致する助成金があるかどうか調べてみて下さい。また、厚生労働省が作った「雇用関係助成金検索ツール」というホームページから合致する助成金があるかどうか検索するのもよい方法です。
厚生労働省助成金検索ツール https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00007.html
自社に合致するものは分かったけれど、書類作成をしている時間がないという場合には、支援をする社会保険労務士などの専門家がいます。書類作成支援という観点から外部の専門家の活用を検討してみてください。報酬は助成金額の2割程が相場です。
会社の取り組みには、多くの投資が必要となります。投資の回収や次の投資を円滑に行うためにも、自社の理想の姿の実現に合致する助成金を上手に活用してください。
(執筆者プロフィール)
上村和弘 中小企業診断士 社会保険労務士 キャリアコンサルタント
外資系医療機器メーカーのトップセールスを経て、コンサルティング会社に転職。約80社に組織化のための評価制度を導入。2011年社会保険労務士資格合格を機に独立。多業種への人事コンサルティング経験を活かし、開業以来円滑な労務運営の仕組みの追求を行う。