成功率を高める!中小企業のためのプロジェクトマネジメント
1.はじめに
新型コロナの影響で既存事業が低迷し、業績回復のため新事業に乗り出した企業も多いのではないでしょうか。その中で、計画は作ったけれど実行できていないところもあると思います。原因のひとつに、上手く進めるための方法を知らないことがあります。知っていれば格段に成功率が高まります。その方法として、プロジェクトマネジメントと呼ばれる手法が存在します。といっても、「ヒト・モノ・カネが少ない中小企業には実施できないよ!」と思われる方もいらっしゃると思います。大規模なプロジェクトでは複雑なノウハウが求められますが、規模が小さければポイントをしぼって実行しやすくする方法もあります。本稿では、プロジェクトを上手く進めたいと思っている中小企業の経営者の皆さまに、中小企業に合ったプロジェクトマネジメントとは何かをお伝えします。
2.定常業務とプロジェクト活動の違い
生産、購買、販売、総務などは、「定常業務」です。新事業立ち上げやシステム導入などは、「プロジェクト活動」と呼ばれます。これらの違いを知ることが大切です。定常業務は繰り返し作業ですが、プロジェクト活動は毎回新たな作業となるものです。過去に似たようなものがあっても、環境や条件によって内容は同じではありません。そのまま繰り返すと失敗につながりかねません。また、プロジェクト活動は期限が決まっていますので、計画的に活動を完了させなければなりません(図表1参照)。
3.プロジェクトの計画準備
プロジェクトマネジメントには計画準備が大切です。これだけは押さえておきたいものとして、取り組み範囲、スケジュール、体制の設定があります。これらは経営者が主導して決めることが大切です。経営者一人では規模が大きく対応できない場合は、補佐する管理者を決めることも必要になります。他にも押さえるべき点として、コスト、品質、リスクなどがあります。これらは、中小企業では、プロジェクト活動としてではなく定常業務の一環として管理するほうが重複せず分かりやすいので、本稿では割愛します。
(1)取り組み範囲の設定
何をどこまで実施するか、何を実施しないかを明確にします。これを決めないと、途中で取り組み範囲が拡大しやすくなります。その結果、期限内に終わらない、コストが超過する、品質が下がるなど、さまざまな悪影響がでます。取り組み範囲の設定には次のポイントがあります。
【ポイント】
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プロジェクトに対する関係者の要望・期待を把握し、実現した場合のアウトプットを文書として明確に記載 |
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ヒト・モノ・カネなどの制約や、法律、前提条件を考慮して実現可能性を検証 |
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大きなレベルで作業を洗い出し、それぞれの作業ごとに小さなレベルに分解 |
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抜け漏れが無いかチェック |
(2)スケジュールの設定
取り組みについて、順序を決めて実施期間と所要時間を見積ります。先行して作業するもの、後続でないと開始できないものを区別して、お互いの関係性を紐づけます。作業の内容が把握できる近くのものは小レベルまで、作業の内容が不明確な先のものは大レベルで設定します。最初からすべて詳細に決めようとすると、実態に合わないことが多くなり実行されなくなる原因になります。スケジュールの設定には次の ポイントがあります。
【ポイント】
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取り組みの中で特に大事なイベントは実施時期を予め決定 |
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取り組みの順番、前後関係を決定 |
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近くは小レベル、先は大レベルで実施期間、所要時間を設定 |
(3)体制の設定
取り組みについて、誰が何を担当するか決めます。作業に求められる技能や資質を考慮します。作業に人を割り当てたら、その人が実行できる時間があるかも検証します。中小企業は人に余裕がなく、現業を継続したままでプロジェクトに参加することが多く見受けられます。精神論で担当を決めても実行されないことになりかねません。プロジェクト参加者の現業負荷を、他の従業員へ割り振ることも考慮すべき事項です。担当決めは人を見る目と人事の権限が必要であり、中小企業では経営者が主導して決めることが望ましいといえます。社内での要員の割り当てが余力として難しい場合や、専門的な技能が求められる場合は、外部からの人材協力を得ることも考えます。体制の設定には次のポイントがあります。
【ポイント】
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小作業の単位に、適切な担当者をアサイン(プロジェクトの管理者も場合により必要) |
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担当者が現業の稼働を含め実行できる時間があるか確認(従業員間の作業負荷の平準化も考慮) |
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外部からの人材協力を検討 |
4.プロジェクトの計画・管理
プロジェクトの計画準備ができたら実行に入ります。プロジェクトマネジメントでは、計画で決めた各要素を一元的に進捗管理することが大切です。計画は予定と実績で管理します。プロジェクトは状況に応じて機動的に予定を変更します。中小企業は意思決定が経営者のみでなされることが多く、関係者も少ないため、柔軟に環境変化にも対応しやすいメリットがあります。以下に、新事業プロジェクトとして、新店舗展開を図ったケースでの、プロジェクト計画・管理表(例)を提示しますので、ご参考にしてください(図表2参照)。事業計画書を作成する中で、融資契約や物件契約などの重要イベントを明確にします。
(注記)
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スケジュールの上部に重要なイベントを記載する。 |
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プロジェクト規模が小さければ、作業レベルは3段階程度が見やすい(L1:プロジェクト名、L2:大作業、L3:小作業)。プロジェクト規模が大きくなれば作業レベルをさらに深くしたほうが管理しやすいこともある。 |
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予定と実績、開始と終了を記載。小作業は1週間単位以下の粒度が望ましい。先は大作業のみ、近くは小作業も期間を設定する。 |
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開始前は“未”、実施中は“中”、終了したら“済”を入力。“済”となったら作業レベルと状況をグレーで色付けすると見やすい。 |
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1作業につき1人をアサインする。 |
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作業ごとに予定、実績の時間を入力。先は大作業のみ、近くは小作業も時間を設定する。 |
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先行と後続作業の関係を矢印線(赤)で記入。矢印の元が先行作業、先が後続作業となる。 |
5.最後に
プロジェクトマネジメントには正解はありません。図表2でプロジェクト計画・管理表(例)を示しましたが、作業レベルの深さにより、小作業を日単位で管理したほうが良い場合などもあります。自社の状況、実態にあった形で進めることが必要です。プロジェクト活動は、計画的に進めることにより成功率を高めることができます。経験した内容は、自社の情報資源にもなります。ぜひ、ご参考にしていただければ幸いです。
渥美 孝明
中小企業診断士、PMP(プロジェクト マネジメント プロフェッショナル)