経営相談なら診断士 ~相談相手としての中小企業診断士の魅力~

1.「傍目八目」ってご存じですか?

 「傍目八目(おかめはちもく)」という言葉があります。他人の囲碁をそばで見ていると、対局者よりも冷静に手が読めるという意味から、第三者の方が、物事の是非得失を当事者以上に判断できる場合があるということです。

 中小企業の経営者が、経営について悩みを抱えたときに、気軽に相談できる第三者がいると心強いですよね。一人で悩まずに、相談してみると道が開けるかもしれません。

 社外の相談相手としては、やはり日頃良く顔を合わせる税理士や同業の経営者などが多いようですが、顔見知りであるほど、全てをさらけ出して相談するのは抵抗がありますよね。また、相手の経営についての見識次第では、誤ったアドバイスをもらう可能性もあります。そこで、経営相談の相手として、うってつけの「中小企業診断士(以下、診断士)」をご紹介したいと思います。

2.相談相手としての診断士の魅力

 実は「診断士」は、経営コンサルタント唯一の国家資格です。資格がなくても「経営コンサルタント」にはなれますが、国が決めた能力を測る物差しで合格点をクリアしたコンサルタントが診断士です。私は、経営者が相談する相手として、診断士には以下の4つの魅力があるのではないかと思っています。

 (1) 診断士は経営全体を横断的に見る
 (2) 診断士は堂々巡りの議論はしない
 (3) 診断士は行政・金融機関とのパイプ役
 (4) 診断士は秘密を守る

(1) 診断士は経営全体を横断的に見る

 これは中小企業診断士試験の試験科目を、他士業の試験科目と比較すると一目瞭然なのですが、企業経営に係る科目が必須なのは、実は国家資格の中では、診断士だけなんです。診断士の試験科目を見ると、中小企業経営者の相談相手として求められる知識がバランスよく網羅されています。

図表1 士業の試験科目一覧(国家資格)

(筆者作成)

図表2 診断士の試験科目

(筆者作成)

 試験科目から見ても、経営相談を受けるのは、診断士の本業と言えます。診断士は、どんなテーマに取り組むときにも、まずヒト、モノ、カネ、情報、法律、外部環境など経営全体を横断的に見ます。売上が落ちてきた、人が辞めていく、などの問題も意外なところに原因が潜んでいたりします。診断士は、真の原因と対応策を探るために、まず会社全体を横断的に見ることから始めます。

 診断士を理解する上で参考になりますのでご紹介しておきますが、診断士試験合格者の9割以上は職業人です。高い志を持って、忙しい仕事をしながら勉強を続けて難関試験に合格しています。試験のために勉強して得た知識だけではなく、診断士には元の職業におけるベースの知識と経験があります。これらの幅広い知識と経験から、経営全体を横断的に見ることができるのだと思います。頭でっかちにならずに、現場で実行可能な提案ができる経営コンサルタントの素地は、この辺にあるのかもしれません。

(2) 診断士は堂々巡りの議論はしない

 「堂々巡り」とは、僧侶や信徒が願い事を叶えるために、神社やお堂の周りを何度も回る儀式に由来している言葉のようですが、一般に、同じような思考や議論が繰り返し、少しも前に進まない状態をいいます。経営改善の議論も、堂々巡りになりがちです。

 そんな議論に診断士が加わると、経営改善のプロとして、まず事実を確認します。そして、フレームワークを駆使して、皆が納得する形で、効率良く最良の改善策へと導きます。

 まずは、事実をしっかりと見つめることが大切です。とは言っても、収集した事実をボーッと見ているだけでは、何も分かりません。事実を細かく深く分析することによって、課題解決の糸口が見つかります。事実に基づいて考えることにより、堂々巡りの議論を終わらせ、効率的で建設的な議論ができるようになります。この時に役に立つのがフレームワークです。

 フレームワークとは、思考の枠組みのことであり、分析の切り口です。コミュニケーション・ツールでもあります。ドラえもんなら、困ったときは、ポケットからひみつ道具を取り出して危機から脱しますが、診断士は議論に行き詰ったときは、フレームワークを使って、議論を先に進めます。

 フレームワークは、世界の学者・研究者、経営コンサルタントなど、偉大な先人たちが開発・残してくれた遺産です。診断士は、フレームワークを駆使して、経営改善をサポートします。現状・課題を「見える化」し、関係者の納得・共感を得ながら議論を進めることができるようになります。

 診断士は、目的に応じて、下表のようなフレームワークを駆使します。

図表3 主なフレームワーク

(筆者作成)

 暗算のできる人が、頭の中にソロバンを立ち上げるように、診断士は頭の中にフレームワークを立ち上げます。診断士が加わることによって、堂々巡りの議論に陥らず、真の改善につながる質の高い議論ができるようになります。そして、皆が共感できる改善策が「見える化」されます。

(3) 診断士は行政・金融機関とのパイプ役

 中小企業・小規模事業者は、我が国の企業数の99.7%を占め、全国3千万人を超える雇用を支える、我が国経済の屋台骨であるとの認識のもと、政府は様々な支援策を実施しています。

 2021年秋の衆議院議員選挙の際にも、自民党は中小企業・小規模事業者を応援する政策を掲げています。コロナ禍の影響を受ける中小企業・小規模事業者の事業存続・雇用維持、新分野展開や業態転換を支援する事業再構築補助金の拡充、生産性向上・事業再編、スタートアップの成長支援などを公約として掲げています。行政は、今後も中小企業・小規模事業者の支援に本気で取り組もうとしています。

 しかし、これらの中小企業政策について、具体的にどのようなものがあり、どのように利用するのか、十分に知られていないのが実態です。大変残念な状況です。せっかくの行政からの手助けを利用しない手はありません。特に補助金は、投資のための資金調達手段の一つですが、返済不要なため、全体の投資回収期間を大幅に短縮でき、成長の起爆剤になります。施策を効果的に取り入れていくことで、中小企業も成長しますし、行政も政策が実現できてうれしいのです。

 診断士は、中小企業政策の担い手として位置づけられています。もともと診断士は経済産業省が中小企業振興のために政策として創った資格なので、当然ですが行政とのパイプ役です。中小企業施策に精通した診断士は、支援策活用の案内人とも言えます。補助金についても、中小企業の側に立って申請のお手伝いをするだけではなく、申請を受け付けて審査をする、行政側の一員としてのお手伝いもしています。

 また、金融庁は、金融機関が取引先の経営状態を把握して取引をするリレーションシップ・バンキングを推進しています。担保のあるなしで取引を判断するのではなく、取引先の経営状態を分析して融資などを進めるためには、経営のわかる専門家が必要です。診断士は地域金融機関と連携して、経営診断・助言、経営相談や情報提供などにより、中小企業と金融機関とのコミュニケーション・ギャップを解消し、円滑な融資が行われるよう、金融機関と中小企業とのパイプ役を果たしています。

図表4 診断士は行政・金融機関とのパイプ役

(筆者作成)

(4) 診断士は秘密を守る

 生産方法、販売方法、固有技術、新規事業展開、製品開発、価格・コスト、業務提携に関する情報、顧客情報など、一旦流出して不正利用されれば、企業に大きな損害が生じます。また、社長が検討中の社内の組織改編、人事異動、処遇改定、事業承継に関する情報など、家族にも社員にもまだ内緒にしておきたい社内情報もあります。

 診断士は、原則として、支援している企業名を他人に伝えることはありません。診断士は、その家族にも支援先について話すことはありません。経営コンサルタント業は、強く守秘義務が求められる業種の一つです。

 誰でも「経営コンサルタント」と名乗れますが、診断士以外は、秘密保持義務や守秘義務が課される法律上の規定はありませんので、秘密情報を話す場合は、秘密保持契約が必須です。診断士は、規程類で守秘義務について厳しく規定されているだけでなく、研修も受けています。診断士は、秘密を守ります。診断士の仕事は、秘密を守るという信用の上に成り立っています。

 東京都中小企業診断士協会が定めた中小企業診断士倫理規定第7条(秘密の保持)には、診断士は、「職務上知り得た秘密及び情報等を、他に漏らし又は利用してはならない。」と規定しています。そして、経済産業大臣は、診断士が職務上の秘密を漏らし、または盗用した場合、その者の登録を取り消し、以降3年間登録を拒否しなければならないことになっています(中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則 第5条、第6条)。

 各都道府県の中小企業診断(士)協会は、守秘義務に係る規程類を定めるとともに、コンプライアンス研修も実施しています。

【各都道府県の中小企業診断(士)協会が定める守秘義務に係る規程類】
・中小企業診断士倫理規定及び細則
・ コンプライアンス・マニュアル
・ 個人情報保護基本規程
・ 個人情報保護に対する基本方針
・ 情報管理規則
・ 特定個人情報の適正な取扱いに関する基本方針
・ 特定個情報取扱規則 など

3.どこに行けば診断士に会えるのか

 以上見てきたように、経営相談にうってつけの診断士ですが、あまり馴染みのない方もいらっしゃると思います。

 一般社団法人 中小企業診断協会では、会員診断士の得意分野や専門業種、コンサルティング実績や講演、原稿執筆などの詳細なキャリア情報をデータベース化しており、全国の診断士のキャリア情報の提供や紹介を無料で行っています。コンサルティングや教育・研修のご依頼、各種調査、講演、原稿執筆などのご依頼については、各都道府県の中小企業診断(士)協会に相談することができます。

 また診断士は、中小企業支援機関に経営支援の専門家として登録され、支援企業へ派遣されたり、窓口などで経営相談の相談員を務めたりしています。

【中小企業支援機関】
・ 国、都道府県
・都道府県等中小企業・ベンチャー支援センター
・独立行政法人中小企業基盤整備機構
・商工会、商工会議所
・中小企業団体中央会 など

 以下の表で、診断士の使い方を例示させていただき、終わりにしたいと思います。診断士とのつきあい方、契約の結び方は全くの自由です。

図表5 診断士の使い方

(筆者作成)

 経営について悩みを抱えたとき、あるいは一層の発展を期するとき、一人で悩まずに診断士に相談してみると、道が開けるかもしれません。

藤本心平
中小企業診断士