国際入札、グローバル提案での標準プロセスと用語
国を越えた入札(TPPやEPAでは、加盟国の政府調達は国際入札を義務化、推奨)の場合はグローバル提案の標準プロセスを求められます。
今回は、国際入札やグローバル提案で標準化されつつある、標準プロセスと使われる専門用語を解説します。
1.グローバル提案での留意事項
(1)RFIから契約まで半年以上はかかる。
近年では、官公庁入札においても従来の価格競争入札から、技術提案・交渉方式、プロポーザル方式、段階的選抜方式など民間の創意工夫を引き出す方式が増えています。
民間の提案・選定プロセスにおいても、大型案件になると中立的なコンサル会社がそのプロセスに入る場合も多くなっています。
このような場合に使われるのが、RFI、NDAに始まってShort List、交渉、契約まで、半年以上の長期間に渡るグローバル提案の標準プロセスです。
(2)顧客に対しての、価値ある提案が求められる。
提案に際しては、より顧客価値を前面に出して、競合他社には真似のできない特長を強調することが求められます。
以下に、価値提案(Value Proposition)の意味を示します。
2.グローバル提案の標準プロセス
標準的なグローバル提案のプロセスを、購入者・企業と提案者・企業の立場で以下に示します。
国や企業のビジネス慣習、提案案件の複雑さや大きさなどによって、省略、簡素化されるプロセスもあります。
(1)RFI(Request for Information)
先ずは、購入者側が提案参加希望者に企業概要や事例を聞いてきます。
このフェーズでは、提案希望者は参加意思と共に同様案件の完成経験・事例、競合他社に比べての自社の優位性や強みなどをアピールします。
(2)NDA(Non Disclosure Agreement)
(1)から、購入者側の条件に合う企業に対して、正式な提案参加要請と提案参加に際しての秘密保持契約の締結が求められます。
提案企業は、正式の提案参加要請受諾と共に、提案に際して入手する“秘密と明示”した文書などの内容を第三者に漏らさないことを約束します。通常は、購入者および提案者の双方向の守秘義務契約になります。また、提案に敗退しても、一定期間、特定条項は引き続き守秘義務が課されます。
(3)RFP、RFQ(Request for Proposal, Quotation)
提案依頼、見積依頼です。
提案参加受諾企業に対して、提案の内容、条件、スケジュール、提出物、問い合わせ期間・ルール・窓口などが、購入者側が準備する提案依頼説明会などで、提案参加企業に説明されます。
(4)Proposal, Quotation Submission
提案書・見積書の提出です。
・比較優位性ある価値提案(Value Proposition)
・Short List、DD(Due Diligence)や交渉のフェーズを意識した条件付きの提案・見積の提出が求められます。
特に、日本では価格が優先、先行して曖昧な条件で見積ることが多く見られますが、このフェーズでは提案内容、成果物、期間、SOW(Scope of Work、作業範囲)、下請け発注可否や作業分担などの詳細な提案・見積条件を明示して見積価格を提示し、以降のフェーズにつなげることが重要となります。
(5)Presentation、Short List
提案内容説明と購入者による一次選定です。
一般には、提案企業別に日程と場所が決められ、提案者が提案内容と見積価格の説明を行い、購入者側が質疑を行います。提案最大の山場です。
Long List(数十社の提案参加企業)から、購入者側の提案条件に適合する数社(Short List)に絞りこまれます。
このフェーズでは、特に大規模案件においては国際的コンサルファームが購入者側の委託を受けて、提案内容の詳細比較と点数付けを行います。一般的には①技術評価、②価格評価、③提案企業評価で重み付けを行います。
(6)Due Diligence
(5)のShort Listに選定された複数社に対して与えられる、提案者が提案内容を履行するに際して、実現可能性を検証する正当な権利を言います。
元々は、M&A(企業の合併や買収)時において、買い手が被買収企業の会計・財務面における「過去および現在のリスク」を精査するため財務デューデリジェンス(DD)を行った事がはじまりです。
本件では、Short Listに選定された提案企業が、購入者側の財務、法務などを調査・評価して、提案内容を実現できるかのフィージビリティを確認します。比較的小規模案件で提案企業の責任で履行できる提案の場合は、購入者の支払い能力や訴訟を抱えていないかなどの簡易DDで済みますが、購買者側の作業協力やIT環境との整合が必要で長期にわたるサービス提案の場合は、労務、ITそして「将来のリスク」を精査するビジネスDDまで必要となります。以下に、M&A(事業、企業の合併)におけるDD項目を示します。
(7)BAFO(Best And Final Offer)
(6)の調査・評価を踏まえた、Short List提案企業による最終提案・最終見積提示です。この最終提示内容をもって、購入先はShort List数社から1社を契約の交渉相手企業として選定します。
(8)Contract、Negotiation
(7)の結果、購入者が選定した提案企業1社が、優先交渉権を得て、購買者との契約交渉を開始します。DDを経て、(4)の見積価格提示で留保してきた見積条件が明確になるため、提案者から購入者に対して厳しい契約条件を出す場合もあります。日本の契約交渉では、売り手が弱い立場になることが間々ありますが、グローバル標準プロセスでは、買い手優位とならない工夫があります。
契約交渉不成立の場合は、次点のShort List提案企業に交渉権が移る場合もあります。
(9)その他の用語
①PMI(Post Merger Integration)
提案内容履行に際して、購入先の一部事業の合併・買収(M&A)が含まれている場合に重要となる、合併後の統合プロセスのことです。
新しい組織体制の下で、提案で示した内容を実現して、企業価値の向上と長期的成長を支えるマネジメントのしくみを構築、推進するプロセスの全体を指します。
②PMA(Post Mortem Analysis)
敗退した提案参加企業による、提案内容とプロセスの敗因分析を行います。日本語への直訳は、「検死」になります。日本では、「次にがんばろう」みたいな反省が散見されますが、グローバル提案での標準プロセスでは、詳細な敗因分析を行いレポートにまとめ、影響度に応じて人事、組織、事業戦略の見直しを行います。
3.まとめ
国際入札、グローバル提案は、競争や評価や選定の公平性、透明性を確保するために標準化が図られてきています。
今後、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の締結が進む中で、国際入札やグローバル提案に参加するためには、上記プロセス、用語への理解が必要になります。
執筆者
向井実
中小企業診断士、行政書士