【憲法条文】
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
有名になった、株式会社電通におけるダイバーシティ(多様性)課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」下、DDL)の「LGBT調査2015」では、全国69,989名を対象に、LGBTに関する広範な調査を実施しました。その結果、LGBT層に該当する人は7.6%となりました。本調査では、セクシュアリティを「身体の性別」、「心の性別」(自分は男だ、女だという性自認)、「好きになる相手・恋愛対象の相手の性別」の3つの組み合わせで分類し、DDL独自の「セクシュアリティマップ」(下図参照)を元に、ストレート(異性愛者で、身体と心の性別が一致している人)セクシュアリティである図内②(ストレート男性)と、図内⑩(ストレート女性)と答えた方以外をLGBT層と規定しています。
セクシュアリティマップ
如何でしょうか、7.6%という数値は共同体の一員として既に市民権を得ている規模になります。言葉の力は絶大です、10年前には聞いたこともない「LGBT」という輸入言葉の普及により、一気にクローズアップされ、顕在化されてきた問題です。
さて、それでは企業における取組を見ていきましょう。「LGBTって何?」、「ダイバーシティとの関係は?」「実際に、何をすればいいの?」・・・まだまだ緒に就いたばかりの感があります。
出典:経団連「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて【概要】」
出典:経団連『LGBTへの企業の取り組みに関するアンケート』調査
次に、先行してLGBTへの対応を行っている企業の取組み内容を、見ていきましょう。
■花王
・社内規程の明記、性的指向、性別の認識または表現を理由とした差別の禁止。
・社内セミナー等の開催、年一回のニュースレターの発信。店頭での接客に当たる美容販売員、その上長への啓発。
・本社、国内事業場の多目的トイレの表示を、性別によらず誰でも使いやすいように変更。
■カルビー
・社内規程の明記、LGBTへの取り組みも「働き方改革」の一環として、2017年3月に社外へ向けてニュースリリース配信。
・人事制度を改定して、結婚、慶弔休暇、慶弔見舞金の制度において、同性パートナーも対象とする。
・社内セミナー等の開催、社内相談窓口の設置、採用活動におけるLGBTへの配慮、新卒採用活動におけるエントリーシートから性別記入欄を廃止
・カルビーオリジナルの※ALLYステッカーを作成し、希望者に配布。
※アライ(Ally)とは、LGBTの支援者のことを指す言葉。
■イオン
・社内規程の明記、性的指向と性自認などを理由にした差別は一切行わない。
・社内セミナー等の開催、社内相談窓口の設置、誰でも使えるトイレの必要性をディベロッパー事業のグループ会社幹部への提案、LGBTに関する社外イベントへの協力・社外評価。
■サントリー
・2011年にダイバーシティ推進室を設置、2013年春には全課長を対象としたLGBT研修を実施。
・2015年より全従業員にむけてサントリーグループ・ダイバーシティ通信「いろどり」を発行し、“一人ひとりの「考動」革新”を推進。
■ジョンソン・エンド・ジョンソン
・LGBTに関する理解啓発と、ダイバーシティとインクルージョン文化の醸成に関する活動を行う、有志の当事者及びアライの社員によるグループで、「Open&Out」を発足。
・LGBTの社員に対し社内コミュニティを提供するほか、LGBTに関する問題と知識に関しての意識醸成や啓発活動などを行う。
■野村ホールディングス
・LGBTの支援者であることを表明する、LGBTA(I am an LGBT Ally)というステッカーを制作し、自分の席やパソコンに貼る運動を実施。
さて、あなたの会社も先ずは、LGBTへの理解を高めることから始めては如何でしょうか。LGBTに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援する任意団体work with Prideが2016年に策定した、「企業がやるべき、LGBT対策チェックリスト」を参考までに示します。
最後になりますが、私の米国経験を披露させて下さい。米国子会社滞在中、雇用問題で何回か法務担当の社内弁護士(inhouse attorney)と打合せを行っていた当時の事、「Mさんって、ゲイなんですね」(Ae you gay? fine.)と女性の社内弁護士に”普通の語感で肯定的に”で言われたことがありました。
事務所は、カリフォルニア州のサンタクララ(シリコンバレー)でしたので、本社があった共和党支持者の多いテキサスと違って、性や個人の権利について開放的な民主党的雰囲気がありましたが、2つの事を感じました。一つは、『Mさんは、勤務時間後も家族や社会活動・趣味の友人より、いつも特定の日本人男性と連れ添って飲みに行くのが好き』と指摘している事。そして二つ目は、『ゲイは、個人の価値観や先天的志向であり、幸福追求の権利として認められ、米国では市民権を得ている』という事です。決して、マイノリティー的な見方ではなかった“語感”を感じました。
ここで、読者の皆さんにカミングアウトしておきます。私は、同僚男性と飲みに行くのが好きな典型的な日本人オヤジであり、ゲイではありません!!
日本においても、多様性の受容、個人の幸福追求権が高まる中で、新たな外来語である“LGBT”は、その価値観と話題性から、確実に市民権を得ていくと思われます。特異な体質や例外的取り扱いではなく、多様性ある隣人の普通の幸福追求の権利として。
次回、人権ワンポイント講座Vol.4は、近年の個人情報や営業秘密の漏洩、知的財産権への関心の高まりを受けて、個人のプライバシーと企業における営業秘密の守り方を考えます。