■人権ワンポイント講座 Vol.5 外国人労働者

【憲法第14条】
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

今回は【1】外国人労働者が増加していく実態と、【2】行政、産業界の対応(活用事例)、【3】隣人としての外国人とどの様に接すればいいかを一緒に考えます。

先ずは質問です、上記の憲法14条の規定は、日本で働く外国人にも適用されるのでしょうか? 憲法には、「何人も」と「国民は」と主語を使い分けています。本条文は「国民は」なので、外国人には適用されない? と思うでしょうが、最高裁判所の判例では、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」(マクリーン事件:最高裁昭和50年10月4日)。

従って、日本国籍を有していない外国人も原則的には基本的人権が保障され、合理的な理由なしに、外国人と日本国民とを異なって扱うことは憲法違反となります。

さて、それでは日本での外国人労働者の実態について調べていきましょう。

【1】日本での外国人労働者の実態

先ずは最近のトピックス。
2018年12月、「特定技能」という新しい在留資格で外国人労働者を受け入れる出入国管理法(入管法)の改正が成立しました。外国人就労拡大の背景にあるのは、人手不足です。日本の人口は2060年までに32.3%減ると予測されています。特に生産年齢人口(15~64歳人口)は同年までに45.9%減。このような人手不足の予測が、外国人労働者への期待の背景にあります。
新たな「特定技能」の導入で2025年には、外国人労働者が200万人を超える勢いです。

「我が国における外国人労働者数の推移」を見ると、日系2世・3世や在日の永住者たちの「身分に基づく在留資格」の割合が一番多く占めています。いわゆるホワイトカラー的な仕事の「専門的・技術的分野の在留資格」、人手不足を背景として推し進められてきた「技能実習」、留学生がアルバイトとして働く「資格外活動」の割合も軒並み増加しています。今後は新たな制度「特定技能」の外国人労働者が増加していくと想定されます。

最新(平成30年10月末)の統計情報を見ると、外国人労働者数は1,460,463人で、前年同期比181,793人、14.2%の増加となり、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高となりました。増加した要因としては、①政府が推進している高度外国人材や留学生の受入れが進んでいること、②雇用情勢の改善が着実に進み、「永住者」や「日本人の配偶者」等の身分に基づく在留資格の方々の就労が進んでいること、③技能実習制度の活用により技能実習生の受入れが進んでいること等が背景にあると考えられます。

【2】外国人労働者に対する行政、産業界の対応(外国人活用事例)

さて、次に外国人労働者に対する行政、産業界の対応(外国人活用事例)を、主な発信文書や施策から見ていきましょう。

(1)「新たな外国人材の受入れについて」法務省入国管理局、平成31年2月

新たな在留資格である「特定技能」(1号、2号)、受け入れ体制、技能実習生との関係、そして具体的な入国や登録の手続きが書かれています。

(2)高度外国人材の受入れ・就労状況」法務省・厚生労働省・経済産業省、平成29年12月13日

「専門的・技術的分野の在留資格」で在留する外国人である『高度人材』に絞って、推移、受入れ体制、ポイント制が書かれています。

(3)「高度外国人材活用資料集」JETRO、平成30年2月

JETROが行う「新輸出大国コンソーシアム」にて、中堅・中小企業の海外展開、外国人材(高度人材、技能実習生)採用に活用。

『高度人材』と呼ばれている人々は、いわゆる「専門的・技術的分野」に相当する仕事をしている外国人で、本資料ではビジネスの課題、高度人材の具体的採用、活用の4ステップ(絞込み、アプローチ、在留資格、定着・育成)と異文化マネージメント、そして活用事例を紹介しています。

(4)「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために~雇用管理改善に役立つ好事例集~」厚生労働省、平成30年3月

★ポイントは、CDP(キャリア開発計画)の採用。

高度人材の求めるものはと「職務記述書」と「専門性」重視です。日本的な、①正社員=期間の定めのない雇用契約(無期雇用)と、②総合職=何処で何をさせられるのかが分からない、では①目標期限を設けて②専門性を活かしたい大学卒の高度外国人にとっては、不安です。本事例企業は、外国人採用を契機に、総合職と専門職を設け、業務内容や目標を明確にしました。

 

★ポイントは、受入れる日本人管理職の部下育成力強化です。

日本人と違い、「あいまいな説明をしても、理解は得られない」中で、日本人管理職向けの意識改革を実施して、明確な説明、目標設定、フィードバックを徹底させた事で、高度人材17名、離職率ゼロにまで職場を変えた事です。

★ポイントは、コミュニケーションの“共通語”としてのEnglishです。

Englishは英国人、米国人の言葉で無く、例えばアジア5ヶ国の5人で仕事の話をする場合、1人でも同じ言語(例えば日本語)が通じなければ“共通言語”は、英語になります。文法も発音も、“家庭で使う自国語”の影響を受けていますので、ネイティブの英語ではなく、第2外国語です。

(5)「高度外国人材活躍企業50社」経済産業省、平成30年5月

★ポイントは、「インバウンド顧客対応は、自らの職場のインバンドから」!

年間訪日外国人客数は、2018年12月に3000万人を突破し、2020年には4000万人を目指しています。日本人がインバウンド顧客のニーズを探るより、高度外国人材を雇ってインバウンドビジネスを企画、運営させた方が早く、確実かも知れません。

最後に隣人としての外国人とどの様に接すればいいか、恒例となった私の米国赴任中の経験から探っていきましょう。

【3】隣人としての外国人とどの様に接すればいいか
(1)外国人労働者の立場での経験

実は、米国赴任の内示段階ではカリフォルニアのサンタクララ(Silicon Valley)でしたが、子会社統合で6社を1社にする事になり、本社を置くことになったのは、北米大陸東西(3時間の時差あり)の中央に位置するテキサス州(Central Standard Time)でした。友人の米国人からは「共和党の地盤なので、外国人には住みづらい」「南部なので、有色人種への差別が残っている」「メキシコと国境を接しており、治安が悪い」「家族は連れて行かない方が良い」と、注意を喚起する意見が多かったように記憶しています。

しかし、赴任してみると日本人が少ないこともあり、勤務先でも、住居地域でも、子供の学校でも本当に親切にしてもらいました。特に、学校に関しては、日本人学校は無く現地校、クラスには日本人はいないので、娘たちは苦労していた様子でした。しかし語学習得適齢年齢とサバイバル環境のお蔭で、帰任時の“実用”英語能力は①次女(中学生)、②長女(高校生)、③女房、④私と、赴任時と真逆になっていました(当方は、日系企業で甘えがあった!)。

外国人の立場で3年間暮らした経験では、最初は「常識や仕来たり」への戸惑いがありましたが、①何でも文書に書いてサインする(学校でも銀行でも歯医者でも大量の文書処理がある=Paper Work)、②出来ない約束はしない(電話やガレージドアの故障修理に来る時間帯の通知は10:00~16:00と幅がある=Window)、③職務分担が明確(学校での困り事や履修科目選択の相談は、教師ではなく専門カウンセラーの職務=Delegation)、といった“融通や忖度”が利かない言語・文化と、移民国家で新参者を前提とした制度・仕組みがあったので助かったと、今は分析しています。

(2)隣人である外国人との付き合い方

職場のほうは、IT企業でしたのでインド人やイスラエル人も多く、国籍も宗教も性別も年齢も多様(Diversity)な“外国人労働者”のるつぼでしたが、①業務記述書(Job Description)、②権限委任規定(Delegation Of Authority)が明確で、報酬は③目標管理制度(Management By Objective)ですので、“外国人(日本人)”を理由に困ったことは無かったと思います。逆に、帰国して「日本人だけが乗車している、話し声がしない電車」に乗ると、何となく“不気味で落ち着かない”感覚に襲われた事を記憶しています。

従って、気を使った外国人隣人は、右隣に住むインド人のスニール夫婦と、左隣のロバート家、そして誕生会やハロウィーンで娘が連れてくる友人や家族でした。この辺は、正直女房と娘の方が馴染むのが早く、当方はバーベキューの準備や送迎の裏方でしたので、それほどストレスは感じませんでした。ただ、食べ物ではスニール夫婦はベジタリアンであり、ロバート家の明るい兄弟も、娘の大人びた友達もアレルギーや好き嫌いが個人別にあり、食材やメニューが大変でした。

結局何れの立場でも、外国人としての人権や付き合い方は、全員が“外国人(Alien)”でしたので、特に意識をせずに過ごせました。

さて、【1】外国人労働者が増加していく実態、【2】行政、産業界の対応(外国人活用事例)、【3】隣人としての外国人との付き合い方、を一緒に考えてきましたが、如何でしたか?4月から、職場に外国人労働者が配属されて、一緒に働くことになっても慌てませんか?

私の日本の職場では、若手の外国人(「専門的・技術的分野」の在留資格である『高度人材』)が毎年配属されてきます。今後は、少子高齢化と人手不足の中、一般単純労働を担う「特定技能1号、2号」の外国人労働者が、あなたの職場にも配属されてきますよ。心構えと備えは、大丈夫でしょうか。

次回、人権ワンポイント講座Vol.6は、今までの総まとめでダイバーシティー(職場の多様性)を契機(チャンス)とした企業変革を考えます、ご期待下さい。