1.AIを学ぶために最初に読むべき本
AI界の第一人者、東大の松尾豊教授が書かれた〝人工知能は人間を超えるか″を知っていますか。機械学習とディープラーニングがどう世の中を変えたかが詳しく書かれています。ディープラーニングの特徴をひと言で言えば、コンピュータが人間のように、「気づき」を得るしくみのことです。本書では、人工知能学会で編集委員長なども歴任し、日本トップクラスの研究者である著者が、これまで人工知能研究が経てきた歴史的な試行錯誤を丁寧にたどり、その未来像や起きうる問題までを指摘しています(※1)。是非読んでみてください。このコラムでは、診断士は、急速に進化するAIとどう付き合っていくべきか、を考察してみたいと思います。
2.診断士はAI時代に生き残れるか
2013年ごろオックスフォード大学教授の発表で、士業がAIに取って代わられると喧伝されました。税理士、行政書士、弁理士に至っては90%以上の仕事が無くなるというのです。一方、診断士は0.2%のみで、その根拠は、対人関係、コミュニケーション能力が必要だから、と言われています(※2)。それでも、この結果で、診断士で良かった、と安堵してはいけません。
診断士はこの研究結果に安住することなく、むしろAIを積極的に使っていくべきではないでしょうか。デロイトの一昨年の調査によると、上場企業の中から代表的企業として抽出された46社のCFOが、AIを経営分析に活用したいと答えています(※3)。これは経営層のニーズですが、この部分は定型化し、AIで財務分析手法を自動化できるはずです。このようなニーズに応えるべく、デロイトが作った‘Finplus’や‘Shares AI’と言ったAIソフトなどが市場に出回り始めています。これらのAIソフトは、企業の実態を把握する基本要素を抽出して、指標作成、評価、ベンチマーク企業との比較まで簡単に実行します。診断士にとり今後のチャレンジは、AIを駆使し、経営改善に向けた処方箋の作成や、最適の公的支援、助成金などの提案までレベルを上げられるかどうかです。これらのツールを積極的に使って、より多くの付加価値を乗せていくのが診断士の役回りになっていくと思います。
3.中小企業でのAI導入の実例
更に進んで、AIが、経営改善、オペレーションの効率化を支援できるまでになった実例もあります。伊勢に‘ゑびや’、という創業100年の老舗和食店があります。従業員わずか40人の小企業で、仕入れなど翌日の準備を現場の勘とエクセルだけで運営していましたが、あらゆるデータを駆使してAIで翌日の来店予測をするまでになりました。収集するデータは、気象情報、レジ集計データ、勤怠情報、食べログのアクセス数などです。また店内カメラから顧客の属性や感情も収集し、これら全てのデータの分析を僅か3分程度に短縮しました。これらの情報をもとに機械学習で来店者数を予測し、それをBIツールで、予想来客数、仕入れや必要な段取りを従業員に見える化しました。この見える化でオペレーションの効率が格段に上がり、利益が10倍に跳ね上がったのです(※4)。これは成功例ですが、既知データもないので定型化は難しく、予測の精度を上げるにはかなりのカスタマイズと工数が必要になるのが課題です。
4.中小企業診断士xAI 新たな価値提供に向けて
医者の専門分野に、病理医という、体組織診断によりがんなど病変部の異常を検出する役割を担う専門医があります。筆者が勤めている会社では、膨大なレントゲン写真から、組織診断作業を自動化してがんを診断する、eパソロジストというAIを開発しました。このAIを活用することで、病理医はレントゲン写真を診る膨大な時間をセーブすることできます。そうして判定に磨きをかけ、正確な診断につなげることにより、より多くの患者を助けます。
診断士は企業の異常を検出する、まさにビジネス界の病理医です。AIに代替されるのではなく、AIを使いこなすことにより、自身のより高度な判断、対人関係、コミュニケ―ション、創造力、先見性を発揮して、付加価値を高め、悩める経営者を助けることができるのです。AIというまたとないツールを駆使し、診断士業務の進化を現実のものにしていこうではありませんか。
※1 出典:「人工知能は人間を超えるか」松尾豊著 KADOKAWA
※2 出典: 日経新聞「AI時代のサムライ業(上)」2017年9月25日
※3 出典: デロイト トーマツ ニュースリリース2019年8月8日
※4 出典: CNET Japan https://japan.cnet.com/extra/ms_ebiya_201710/35112861/2/
(執筆者プロフィール)
阪本 晋
大阪外国語大学卒業後、日本電気株式会社にて海外事業を担当、海外向けIT、通信、携帯端末等のマーケティング策定、計画、販売、海外現地法人運営などを手掛ける。タイ、サウジアラビアに駐在経験あり。2010年5月中小企業診断士登録。