大型小売業(百貨店・量販店)における仕入検品の考察

1.はじめに

このコラムでは、大型小売店(百貨店・量販店)に勤務される発注・販売担当、店舗物流に携わる関係者や物流専門家の方々に、仕入検品の歴史と変遷、および今後の目指す方向性について訴求したいと考えております。

取引先や卸売業者から納品がある場合、必ず「検品業務」が発生いたします。検品には検質検品(物品の品質点検)と検数検品(物品の数量点検)がありますが、ここでは、大型小売業における仕入検数検品と問題点、今後の方向性の考察をしたいと思います。検品は商品が目に見えない境界線を超えるので「朱引線の管理」(注1)と言うこともあります。図表1-1で検品の流れを示しております。

図表1-1 朱引線の管理と仕入検品

2.各店別目視検品の時代

40年ほど前は、百貨店や量販店も各店舗個別の目視検品でした。検品員を大勢揃え、検品台の上に商品を並べて目視で数量、金額を確認していました。仕入伝票は、百貨店統一仕入伝票、チェーンストア統一伝票を使用、検品印押印後、仕入伝票を自店かパンチ入力会社にて入力、会計システムに連動させるという仕組みでした。

ここでの問題点としては、検品に大きな人時(人手と時間)がかかるということがあげられます。

3.JANコードとPOSシステムの普及によるバーコードスキャン検品のはじまり

日本でバーコードのテストが始まったのは1972年であり、1974年に通産省指導のもと、POSシステム(注2)の検証が始まりました。そして1978年にはEANコード(注3)と互換性のあるJANコード(注3)がJIS(注4)化されました。

1984年にセブンイレブンがPOSシステムを導入し、JANコードソースマーキングが普及することとなります。その後、POSシステムは百貨店や量販店にも拡大いたしました。

POSシステムの導入により、仕入検品もハンディターミナルによるスキャン検品が始まりました。スキャンデータをサーバーに送信し、会計システムに連動させることにより、データ入力業務にかかる人時が削減されます。検品場所も各店舗から物流会社および卸売業者の物流センターにて実施する方式がすすみ、各店舗の仕入検品を統一して行うことで、検品員の人時も削減されました。

食品卸売業者であるK社のケースですが、ライン上に商品を流し、検品員がJANコードをスキャンしながら商品を集めます(ピッキング)。もし総量が合わない場合にはすべて元に戻してやり直すという極めて精緻な検品方式が採用されています。

問題点としては、検品後の商品をトラックに積み込むのは人的作業となり、誤仕分けが発生するケースがあることです。

4.TA(ターンアラウンド)検品の導入

目視検品やスキャン検品は、数量を足していき合計を出す方式です。それに対しTA検品は、EDI(注5)の発注データをスキャン端末にダウンロードし、納品された商品のスキャンを行い、発注データとの差異(欠品データ)を求めるという引き算の検品方式です。この方式は、発注データから仕入データまでがサーバー上で管理できるため、単品管理(注6)に有効な検品方法です。

問題点は、マスタデータ管理が重要となってくる点です。マスタの原価売価が逆転していたりするケースがあり、マスタサポートなどの人時が新たに発生しております。図表4-1で、TA検品の流れを示しております。

図表4-1 TA検品の仕組み

5.今後の仕入検品の方向性に対する考察(ASNとSCMラベルについて)

ASNとはAdvance Shipping Noticeのことで、出荷時情報を意味し、SCMラベルとは、Shipping Carton Marking Labelのことです。出荷する際に、梱包した商品などの箱に貼るバーコードラベルのことをいいます。

百貨店などで現在、化粧品メーカーとの納品時に活用されているものが、「入荷時検品レス」であるASN/SCM方式です。過去は、取引先が出荷時に検品をし、入荷時にも検品をするという二重検品でしたが、この方式を導入することにより、入荷時業務の迅速化と検品人時の削減がはかれます。

取引先は、出荷時に商品スキャンを行い、梱包箱やオリコン(注7)などに詰め、ASNに紐づけして出力したSCMラベルを貼ります。そしてASNデータ(納品日、納品店舗、商品、数量など)を入荷側にEDI送信します。入荷側では、SCMラベルをスキャンしてデータをアップロードすることにより、会計システムに連動される仕組みとなっております。図表5-1は、SCMラベルの現物の例です

図表5-1 SCMラベルの貼り付け例

6.おわりに

検品精度の向上で、今後「入荷時検品レス」が普及していくものと考えます。食品業界においても、キューピー㈱などがASNを活用した取り組みを行っております。経済産業省も推奨しておりますが、いかに人的作業を軽減させていくことが課題です。取引先および入荷企業ともに「入荷時検品レス」により物流コストを低減させていけば、取引先、入荷企業ともにコスト的なメリットが高まると考えられます。最終的には、検品業務がロボットなどを使用して「自動化」されることが望ましいのですが、まだこれからの課題であろうと思います。

  • 注1: 取引先(納品代行含む)や卸売業者から納品がある場合、商品の所有権を移転する手続き(商流)があります。このとき行われるのが検品(物流)であり、目に見えない境界線を超えるということで、主に百貨店では「朱引線の管理」と言うこともあります
  • 注2:POSは「Point of Sales」という英語の頭文字を取ったものです。日本語では「販売時点情報管理」と訳されています。販売時点での様々な情報を得ることができます。
  • 注3:JANコード(Japanese Article Number)・EANコード(European Article Number)は13桁のバーコードが標準で、国コード(2桁)、メーカコード(5桁)、商品コード(5桁)、チェックデジット(1桁)から構成されています(他の構成もあります)。
  • 注4:日本産業規格(JIS=Japanese Industrial Standardsの略)。日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格です。
  • 注5:EDIとはElectronic Data Interchangeの略で「電子データ交換」の意味。専用回線や通信回線を通じ、ネットワーク経由で発注情報などのやりとりを行います。
  • 注6:単品管理とは、値段だけでなく、商品の色、サイズ、型番までを一点ずつ管理することです。
  • 注7: 折りたたみ式コンテナーをいいます。食品納品などで一般的に使われています。

執筆者 田中正裕 中小企業診断士