中小企業におけるデータ活用を組織的に高める方法

1.はじめに

 私は、約7000万人の会員基盤を持つ共通ポイント事業のデータベースマーケティングに従事しております。近年「ビッグデータ」や「IoT」、「DX」といった言葉が注目され「データをビジネスに有効活用し、企業の成長を加速させたい」という声を現場で多く聞くようになりました。経験と勘に頼った属人的な業務を脱却するためにデータ需要が広がり、さまざまな業界で新たなビジネスの資産となっています。本日はデータ活用を検討している方に向けて、日本のデータ活用の現状と中小企業で今後どのように対応していくべきかお話をします。

2.日本企業のデータ活用の現状

 総務省の「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究(2020)」では、大企業で9割、中小企業でも半数以上がビジネスでデータ活用しています。インフラが整っていて、ビックデータを社内で保有する大企業だけでなく、中小企業も経営企画・組織改革や製品・サービスの企画、開発、マーケティングなどの目的でデータ活用している割合が多くなっております。今後、中小企業においてこの流れは加速すると考えられます。

図表1 データを活用している業務領域

出典:総務省(2020)「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」

3.分析に活用しているデータ

 データには業務データ、販売記録、コミュニケーションデータ、自動取得データ、医療データなどがあります。活用しているデータは5年前と比較するとPOSやeコマースによる販売記録データ、自動取得データの活用が伸びていました。この結果は、データ活用が経営企画やマーケティングへシフトしたことにより、活用するデータの幅が広がっていると考えられます。

図表2 分析に活用しているデータ(2020年を基準とした5年前との比較)

出典:総務省(2020)「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」

 企業規模別に見てみると全体的に中小企業に比べ大企業の活用割合が大きく、特に5年前に比べて伸びが大きかった販売記録データや自動取得データの活用が進んでいないことがわかります。

図表3 分析に活用しているデータ

出典:総務省(2020)「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」

4.データ活用の課題

 データ活用が進んでいない理由について、NTTデータ経営研究所の調査によると業務プロセスや、人材・スキルに関する現場レベルの課題が上位を占めております。また、戦略・計画・管理や企業文化・カルチャーに関しても2割を超える回答率となりました。

 この結果から、分析ツールやデータの取得・管理・加工などの技術的な観点以外の複合的な要素が絡む傾向にあると言えます。そのため、課題を解決するためにも多面的なアプローチが必要になると考えられます。

図表4 データ活用における課題の回答率上位項目

出典:株式会社NTTデータ経営研究所「企業におけるデータ活用の取り組み動向調査」(2020年5月)

5.データ活用促進に向けて

 データ活用技術・ノウハウを蓄積し、業務プロセスや人材・スキル面で改善するためには、以下の方法が考えられます。

(1)データ活用の目的を明確化する

まず目的が不明瞭だと費用対効果も測定できなくなってしまいます。
データを有効活用するためには「何のために情報を集めているのか、その後どのように使おうとしているのか、それによってどのような効果を望んでいるのか」をまずは明確化しましょう。

(2)情報収集したデータを「見える化」する

データ分析をかけた内容を週や月ごと、あるいはお店、商品ごとにわけて傾向を図るなど、検証を進めやすい形に工夫することは可能です。データごとの関係性を見つけることから始めることが良いでしょう。

(3)顧客から分析する

顧客の購入履歴や売上に関する情報など、顧客のニーズや行動傾向に関わる情報は、データ分析から経営企画・組織改革や製品・サービスの企画、開発、マーケティングに活用できます。

(4)経理データからはじめてみる

経理データはほとんどの企業が持っていると思いますので、社内のコストに比重がかかっている部分を削減する方法を検討するなどからはじめることが良いでしょう。

(5)書類の電子化を進める

書類作業をなくして電子化すると、社内でデータ収集や分析ができる体制が整えられます。システムやツールを使いながら、日ごろの業務を通してデータを蓄積して有効活用しましょう。

(6)プロジェクトチームを立ち上げる

データの扱いに慣れている人材を集めプロジェクトチームを立ち上げることで社内浸透および業務としての定着を図ります。データ活用を外注任せにするのではなく、社内の人材でも行うことで自社の強みが蓄積され、より効果は高まります。まずはデータ活用に意欲的な人材を増やし、プロジェクトチーム内から育成を進めましょう。

6.まとめ

 中小企業診断士として活動していく中で、補助金を活用してデータ活用やIT化を進めたい企業が増えているように感じます。ただ、資金調達ができたとしても、その資金を有効活用するためには、実際に会社を動かす人材を強化する必要があります。また、そもそもデータを活用して何を成し遂げたいのか目的を整理することが大前提であると考えます。

 データ活用の技術的観点にとらわれるのではなく、業務プロセスや人材・スキル面を強化し組織力を高めることで、データの有効活用が図れます。それにより企業の成長を加速させてみてはいかがでしょうか。

中村 慎吾
中小企業診断士