1.はじめに

 私は、IT企業で営業をしながら中小企業診断士も担う企業内診断士です。昨今、DXに取り組む企業が増えています。2020年からの新型コロナウィルスの感染拡大による事業環境の変化を契機として、この動きはさらに加速していることを日々の営業活動で痛感しています。
 図表1のとおり、総務省による「DXの取組状況」に関するアンケート調査によると、DXを「実施している」と回答した大企業の割合は4割です。一方、中小企業の割合は1割強であり、かなり遅れている状況です。
 本コラムでは、DXの現状、とくにDXの第一歩であるデジタイゼーション(意味は後ほど説明します)に向けたフェーズと、その留意点ついて述べます。これからDXの推進を検討予定または実施中の経営者やご担当者の一助になれば幸いです。

図表1 DXの取組状況(日本)

出典:総務省「情報通信白書 令和3年版」

2.DXの定義と現状について

 そもそもDXとは何か、という点から確認します。2019年に「『DX推進指標』とそのガイダンス」で経済産業省が公表した定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。このようにDXの本来の目的は、デジタルを使って変革し競争優位性を確立することにあります。しかし、これまでITの利活用が不十分な企業にとって、いきなりこの目的を実現するのは困難という意見が多くありました。
 その後、DXの取組みが進まない状況を踏まえ、経済産業省は2020年12月にDXを3つの異なる段階に分解した定義を発表しています。デジタルトランスフォーメーションは、従前の定義の通り本格的なビジネスモデルの改革を指しています。デジタライゼーションやデジタイゼーションは、ビジネスプロセスの改善やアナログ業務のIT化を趣旨としたDXであり、既存業務の延長としてイメージしやすい内容となっています。

図表2 DXの構造

出典:経済産業省「DXレポート2(中間とりまとめ)(令和2年12月28日)」

 図表3は、DXに既に取り組んでいる企業を対象とした調査結果です。多くの企業は、デジタルトランスフォーメーションのような本格的なDXよりも、まずはデジタイゼーションのようなDXの初期段階の対応を実施しています。
 これからDXを検討する中小企業においては、本調査結果と同様にいきなり本格的なデジタルトランスフォーメーションではなく、既に世の中にあるITツールを活用したデジタル化など、まずはデジタイゼーションに取り組まれることをおすすめします。

図表3 DXに取り組む企業が現在取り組んでいる内容について(複数回答可)

出典:株式会社帝国データバンク「DX推進に関する企業の意識調査(2022年1月19日)」

3.デジタイゼーション化に向けたフェーズついて

ここからは、デジタイゼーションの進め方について説明します。

図表4 デジタイゼーション実現に向けたフェーズ

①企画フェーズ
 もっとも重要なのは、システム化する対象を明確にすることです。まずは、「自社のどの業務のどんな無駄を解消するのか」という目標を決めましょう。
その方法として、自社で行っている業務のプロセスを可視化し、何に時間や手間がかかっているのか、どんな関係者が何に気を付けて作業が行われているのかなど、できるだけプロセスを分解することで、対象を明確にすることができます。対象を明確にすることで、手段となるITツールを選ぶ判断基準を明確にすることができます。
 受注処理の業務を効率化するケースを例に説明します。自社の業務プロセスとして、以下の段取りを踏んでいたとします。

(1)顧客からFAXで受領している手書きの注文伝票を、受付担当者が読み解く
(2)管理している台帳に転記する
(3)製造担当者がその台帳を活用し、製造する

  (2)の転記や(3)の活用にはそれほど手間がかかっておらず、(1)の工程で手書き文字の読み解きに時間がかかることや認識誤りが発生することが問題であれば、その無駄を削減する検討が必要になります。無駄と考えられる業務とその業務にかかるコストが明らかになれば、デジタル化により得られる削減コストの具体的な検討につながります。

②概念検証(PoC)フェーズ
 次に課題を解決できるITツールを探します。ITツールを比較しているサイトがありますので、まずは自社の課題に合う製品を見てみましょう。その際、クラウド型のITツールを中心に探してみることをおすすめします。無料のお試し版や最低限のユーザ数で利用できることが多く、現場の方に使ってみてもらうことが容易なためです。
 システム担当者の機能目線だけでなく、業務担当者の使いやすさ目線を中心に検証することで、現場目線を取り込むことができます。また、業務部門の方に早い段階で当事者意識を持たせることで、後続のフェーズでの反発を予防します。

③導入/活用フェーズ
 実際にITツールを選定し本格導入するタイミングでは、マニュアルを作成して社内の関係者に向けた勉強会を開催します。新たに導入した製品の使い方や新しい業務運用の説明にくわえて、なぜ業務をシステム化するのか、ITツールを導入する目的をしっかり説明することが重要です。最初はシステム化に慣れない従業員がいるかもしれません。その場合も、システムを導入することで実現する業務効率化の視点をしっかり伝え、脱落しないようフォローしていきましょう。

④評価フェーズ
 課題を解決できているか、投資対効果が出ているか、という評価にくわえ、組織にしっかりと定着しているかという観点の確認が重要です。もし定着していない場合は、その原因を明確にしていくことが必要です。業務部門へのアンケートやシステムのログをチェックするなど、定性/定量の両面から評価を行い、デジタイゼーションの定着化に向けた改善を進めましょう。
 企画から評価までのサイクルを回すことで、DXの一歩を実現化することにくわえて、変化に柔軟な組織に変わるきっかけにもなります。

4.経営者がリーダーシップを発揮することが大事

 どのフェーズでも、経営者がリーダーシップを発揮していくことに留意する必要があります。

①企画フェーズ、④評価フェーズ
 企画フェーズや評価フェーズでは、IT技術に関する知識だけで方針を定めるのは危険です。経営方針にもとづき、業務改革とセットで取り組むことが必要です。現場担当者任せにせず、経営者自身も自分事として参画し、自社が目指す方向と大きくずれていないか確認していきましょう。

②概念検証(PoC)フェーズ
 このフェーズでは、導入したツールが有益かどうか検証していくことが重要です。とはいえ、経営者が報告や結果を急がせ過ぎた結果、十分な検討ができないケースも少なくありません。そのため、経営者が直接的に関わるよりも、IT部門や業務部門に権限を委譲し、現場主体でしっかり判断できるようサポートしましょう。

③導入/活用フェーズ
 ITツールを実際に活用する際は、既存のアナログ業務からの変化で戸惑いや反発が生まれることがあります。経営者の口からも、デジタルへの変革の必要性について丁寧に説明していきましょう。勉強会を開く場合は、冒頭で経営者から導入目的や期待効果についてしっかり言葉で伝えると効果的です。

5.まとめ

 従来の業務をデジタル化していくことは、大きな成果を生み出すことができる反面、かなり労力がかかる場合もあります。必要な知識や人材、資金を自社だけで確保することが困難な場合も少なくありません。合同会社みんプロでは、中小企業のDXに対する取り組みを幅広く支援できるITに強い中小企業診断士やITコーディネータも多く在籍しております。DXを検討する際には、お気軽にご相談頂ければ幸いです。

中小企業診断士  工藤 徹也