1. はじめに

ビジネスを円滑に展開するためには、市場環境や消費者のニーズ、製品や自社の評価などの情報を集め、自社が抱える課題について、それまで知らなかったことや漠然としていた事柄の答えを明らかにすることが重要です。そのためには様々な調査(リサーチ)が必要です。

しかし、リサーチはそうそう簡単にできるわけではなく、その手法や調査規模によっては相応の費用もかかります。せっかく行う調査の結果を自社の活動に効果的に活かすためにも、リサーチ手法の特性や調査目的との相性などを理解しておくことが大切です。

2. リサーチ手法の分類

リサーチというと、一般的には市場調査やブランド認知度調査などのマーケティングリサーチ、顧客満足度調査の他、社内の従業員意識調査、イベントや研修会で行うアンケート調査などが思い浮かびます。いずれも多数の人を対象とする「定量調査」をイメージすることが多いのではないでしょうか。

この定量調査では、数値化できるデータを扱うため、調査対象の分類分けや購買意向の程度などを客観的に評価でき、調査者が「明らかにしたいこと」を比較的容易に解決できることが特徴です。現在はインターネットアンケートのサービスを使うことが主流です。

これに対し、言語情報を扱う調査方法を「定性調査」といいます。最も代表的なのはインタビューです。調査者は対象者との会話から様々な言語情報を引き出し、その情報を分析することで、これまで明らかになっていなかった消費者の生活実態や心の内側にある様々なニーズなどを明らかにし、新商品の開発や既存製品の改良などに活用します。なお、定性調査には1対1のデプスインタビューや1対多で行うグループインタビュー(以下GI)などがあります。

以上のように、リサーチ手法は定量調査と定性調査の2つに大きく分類されます。

3.リサーチ手法の得手不得手

定量調査、定性調査はその目的によって使い分ける必要があります。何でも安易にアンケート調査をやろうとする場面がみられますが、調査目的や調査時点における手持ち情報の種類などによって、必ずしもアンケート調査が適切とは言えないこともあります。なぜなら各リサーチ手法には得手不得手があるからです。

一般に定量調査は仮説検証、定性調査は仮説探索に向いています。仮説とはまだ証明はされていないが、きっと○○ではなかろうか?という、課題に対する仮の答えです。少し言い換えると、定量調査は既に手元に持っている仮説が一定規模の人数でも当てはまるかどうかを検証する手法、定性調査は手持ち情報が極めて少ないため、まずは仮説を構築するための情報を探索する手法、ということになります。アンケート調査では、設問や選択肢が言わば「仮説の集まり」ということになります。

どんな調査手法でも言えることですが、調査設計がしっかりしていないと多くの場合良い結果が得られません。良い仮説がたくさんある状態で設計することが調査の成否を分けることになるのです。

図表1 調査目的に対する各調査手法の適性

        出典:筆者作成(表中の評価は筆者の個人的評価です)

4.仮説探索→仮説検証

では、良い仮説を得るためにはどうしたらよいか?例えば、全く新しいサービスや製品を開発する際、そもそもターゲットとなる消費者がどのようなニーズを持っているのか?という仮説が必要になります。一見、これを探るのはアンケート調査でも可能に思えますが、その時点で存在していない新しいサービスや製品というものは、消費者は想像すらできません。そのため、「○○を欲しいと思いますか?」のような設問には答えようがないので、効率的な調査をするためにはアンケートは不向きなのです。

このため、仮説探索には定性調査をオススメします。その定性調査で得た仮説に基づいて、アンケートの設問や選択肢を設計するという順序で行うと、調査の効果がグッと上がります。

予算上、きちんとした定性調査まではできないということもあると思います。そのような場合でも、従業員の家族の声を聞いたり、SNSなどを活用することで、ある程度の仮説を得ることは可能ですので、臆せず情報収集しましょう。大事なのは仮説を持とうとする調査姿勢です。

5. 定性調査の例:グループインタビュー(GI)

定性調査にも種類がありますが、ここではGIをご紹介します。

GIは、モデレーターといわれる司会者が、4~6人程度の参加者(調査対象:主に一般消費者)を相手に、調査目的に沿った質問や話題を投げかけ、参加者の自由な話し合いを促し、その会話から潜在的なニーズなどを探る手法です。標準的な調査時間は90~120分程度です。調査中はできるだけ参加者の発言量を確保するため、司会者はあくまで話題の投げかけに徹し、参加者同士で話し合うことを促すように進行します。状況によっては会話が止まることもあるため、適宜司会者が介入してスムーズな話し合いを促します。(図表2)。

図表2 GIのイメージ

出典:筆者作図

参考に、私が以前行ったGIの結果を一部ご紹介します。「炊飯に関する消費者ニーズ」を探るための定性調査です。30~40代と50~60代の女性5~6人に炊飯に関する日常の行動について話し合いをしてもらい、炊飯に関するこだわりや不満などから得られた情報を、消費者ニーズ(仮説)として整理しました(図3)。

図表3 「炊飯に関する消費者ニーズ」とアンケート項目の関係

  出典:筆者調査から抜粋

その後、これらの情報を元に、改めて定量調査のアンケートを設計したという流れになります。これら一連の調査からは、米離れの原因の一つとして炊飯にかかる手間や時間が考えられる一方で、やはり美味しいコメは食べたいというニーズは明確に存在しているということがわかりました。

5. 最後に

今回は、マーケティングリサーチを行う際の入り口をご紹介しました。実際にリサーチを行う際は、専門のリサーチ会社に依頼することが多いと思いますが、調査主体はあくまで自社であり、何を目的に行うのか?など自社の考え方をしっかり持っていることが調査の成否に大きく影響します。本記事が新製品開発やブランド評価の調査企画や、リサーチ会社との協議の場面などでお役に立てば幸いです。

髙橋 大樹
中小企業診断士