知っておきたい契約締結上の注意点
中小企業では、社長様自らが契約書を確認して締結をしていることも多いのではないでしょうか。そのような社長様に向けて、本コラムでは、契約の基本の「キ」と契約書の確認ポイントをお話ししたいとおもいます。
1.契約とは何か?
契約とは、簡単にいうと、「法律による拘束力がある約束」です。
「約束」ですので、一方的になかったことにする(解除する)ことはできません。
また、「拘束力」があるので、約束を強制的に守らされたり(これを「履行の強制」といいます)、約束を破ったことで損害が生じれば、お金の支払いを強制されたり(これを「損害賠償」といいます)します。
この拘束力は「法律」によって作られたものなので、約束を守らない場合には、国によって強制的に契約内容を実現させられてしまいます(これを、「強制執行」といいます)。
2.口約束でも契約は成立するか?
契約は、原則として「申し込み」という意思の表示があり、これに対する「承諾」という意思の表示がなされることにより成立します。契約の成立に契約書は必要ありません。たとえば、「100万円でA製品を売ります」という申し込みに対して、「100万円でA製品を買います」という承諾があれば、A製品の売買契約が成立します。
図表 1 やってしまいがちな安易な口約束の例
3.法律の規定VS契約の規定
契約の内容は、原則として当事者が自由に決めることができます(これを「契約自由の原則」といいます)。そうすると、契約の規定と法律の規定が重なる場面も出てきます。その場合、原則として契約の規定が、法律の規定に優先します(このような規定を「任意規定」といいます)。法律は、契約で規定がない場合に補充的に適用されるにとどまるのです。これは対等な私人間では十分な交渉が尽くされ、妥当な契約内容を定めることができると考えられたからです。
もっとも、道徳的な観点から許されない内容の場合などでは、例外的に法律の規定が優先します(このような規定を「強行規定」といいます)。たとえば、人身売買や臓器売買の契約は、法律の規定により無効となります。
法律の規定とは異なる契約内容とすることもできるので、契約の細部までしっかり取り決めましょう。
図表2 法律の規定と契約の規定の優劣
4.なぜ契約書は必要か?
契約書は、両当事者の合意した内容を書面にしたものです。契約は意思の合致があれば成立するにもかかわらず、なぜ契約書が必要になるのでしょうか。理由は大きく2つあります。
1つは、「紛争の未然防止」です。一方当事者が当然だと思っていることが、実は契約相手と共通の認識ではなかったということはよくあることです。そこで、契約前に、お互いの認識を書面に書き出して、認識の相違をなくし、紛争を未然に防止することが1つ目の契約書の役割です。
もう1つは、「紛争が起きた場合の裁判上の証拠」です。紛争が起きてしまった場合、契約書がなければ「言った、言わない」の水掛け論になる可能性があり、客観的な証拠に基づいた解決が難しくなってしまいます。契約書を作っておけば、裁判所は契約書という客観的な証拠により判断することができ、紛争が迅速に解決されることになります。これが契約書のもう1つの役割です。
5.表題(タイトル)に惑わされるな!
契約書の表題に決まりはなく、両当事者の合意した内容を書面にしたものであれば、すべて契約書です。たとえば、以下のような書類も契約書です。
図表3 惑わされやすい表題の契約書
両当事者が合意するタイプ | 覚書、協定書、合意書など (なお、契約書に添付される仕様書も契約内容となります) |
一方当事者が差し入れるタイプ | 念書、誓約書、注文書と注文請書など |
Web上で同意するタイプ | Web上から申し込みをする場合に同意する利用規約など |
6.契約書は3つの視点で確認する!
契約書には、拘束力が生じますので、遵守できる内容でなければなりません(1.参照)。
また、紛争が起きた場合の裁判上の証拠になりますので、合意した内容はすべて記載されている必要があります(4.参照)。
さらに、契約は特定の目的達成のために結ばれるものなので、契約書の記載内容から契約目的が達成できなくては意味がありません。
そこで、以下の3つの視点から契約書を確認するようにしましょう。
(1)遵守できない義務・条件が課されていないか
契約内容を遵守できなければ契約違反となり、損害賠償責任などが発生する可能性があります。記載された内容を遵守できるか、確認しましょう。
(2)合意した内容は網羅的に記載されているか
メールなどで合意した事項は、時の経過や契約担当者の異動により忘れられ、意外の契約違反や紛争に発展する可能性があります。合意した内容がすべて契約書に記載されているか、確認しましょう。
(3)記載された内容で契約目的が達成できるか
サービスの詳細、製品の仕様、履行期限など契約目的を達成するために不可欠な重要事項の記載を忘れると、思わぬ認識の不一致から契約目的を達成できない可能性があります。記載された内容で契約目的が達成できるか、確認しましょう。
7.社内で契約交渉担当者(営業担当者)の他に、契約確認担当者を置いている場合の役割分担
両当事者の合意した内容は契約の交渉をした人が一番よく知っているはずです。
「契約書が送られてきたら、契約確認担当者に渡す」という社内フローになっている場合、合意した内容と異なる内容で契約を締結してしまう可能性があります。まずは、「契約の交渉をした人が契約の内容を確認し、合意した内容と不一致がないかを確認する」社内フローを入れましょう。
図表4 営業担当者と契約確認担当者が異なる場合の社内フロー例
千田 史生
中小企業診断士