1.テレワークとは

最近、従業員を大切にする企業において、テレワークを導入する事例が増えています。背景には、売り手市場で、社員の採用が厳しさを増す中、人材確保と優秀な人材の継続雇用という狙いがあります。
そもそもテレワークとは、「tele=離れた場所で」「work=働く」という、遠隔勤務をあらわす造語で、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technologyを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方です。従来からあった在宅勤務や、営業マンが外出先でノートパソコンなどを用いて仕事をするモバイルワーク、また、支店など勤務地以外のオフィスで仕事をするサテライトオフィスなどの形態があります。今、働き方改革の追い風を受けて、効果的な働き方の手段として注目を浴びています。

テレワークの形態


(図:出典 テレワークで始める働き方改革 厚生労働省)

2.テレワーク導入の経緯

政府は、2006年に、テレワーク人口倍増に向けた政策をスタートし、2010年には、5人に1人をテレワーカーにするためのアクションプランを掲げ、2013年、世界最先端IT 国家創造宣言で「オリンピックの2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍、週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上にすること」を目標として掲げました。2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会での交通混雑の回避とワークライフバランスの改善の効果を受け、2020年の東京競技大会でも、国内外の大勢の観光客による大会会場周辺の交通混雑をテレワークにより解消させるため、オリンピックの開会日に相当する7月24日を2017年から2020年まで毎年同日をテレワーク・ディと位置づけ、テレワークの導入を推進しています。さらに、2016年8月に、第3次安倍第2次改造内閣において働き方改革担当大臣を新設し、2016年9月、働き方改革実現会議にて「テレワーク」普及の重要性に言及しています。

3.テレワーク導入効果

テレワークの導入は、企業、従業員、社会の3つの側面から、その効果が大いに期待されています。以下、その効果をみていきます。
(1)企業にとっての効果
①優秀な人材の確保・雇用を継続するための手段です。柔軟な働き方を導入することで、人を大切にする企業として企業イメージが向上し、従業員からも信頼を得て、働きたい、働き続けたい企業として評価が高まります。
②また、テレワークを導入するためには、無駄な業務を見直し、ペーパーレスなどが前提となります。つまり、テレワークを導入するためには、業務プロセスの革新が前提となります。
③上記②の結果としてのみならず、テレワークにより、他者に業務を中断されることなく業務に専念できるなど生産性向上が図れます。
④非常時の事業継続(ビジネスコンテンジェンシープラン対策)として、人災、自然災害などで、オフィスで業務ができないときの代替場所としてのみならず、家族のインフルエンザ疾患により、出勤できない社員が自宅で業務に従事でき、企業にとってのリスクが低減できます。
⑤さらに、通勤費やオフィス維持費などのコストを削減できます。
(2)従業員にとっての効果
①通勤に係る時間がなくなることや、自宅にいることで、家族と過ごす時間、家事・育児・介護の時間、趣味に費やす時間、自己啓発の時間などを確保できます。
②もちろん、自身のコントロールの中で仕事を行うため、自律・自己管理的な業務遂行力が強化されます。さらに、解放感のある空間にいることで、アイディアなど創造性も向上します。
③離れたところでの業務遂行となるため、職場との連携強化が必要となり、信頼感が醸成されます。
④退職することなく、継続して仕事ができるで、満足度が向上し、労働意欲が高まります。
(3)社会にとっての効果
①交通混雑の緩和、②地球環境への負荷が軽減(CO2削減)、③Uターンの後押しなどがあります。Uターン後も、日々のコミュニケーションに留意することで、十分な仕事の成果を得ています。

4.導入における留意点など

筆者は、5件のテレワークの導入支援をしましたが、その経験も踏まえ、留意点をご紹介します。
(1) テレワークは働き方改革の一つであり、改革です。したがって、トップダウンによる迅速な意思決定ができる体制とし、人事部門、企画部門、情報システム部門、テレワーク導入部門の主要メンバーからなるプロジェクトチームを組成する必要があります。
(2)テレワークの導入目的を明確化し、共有した上で、導入を推進します。
(3)テレワーク実施範囲(導入範囲)を業務の切り口や、組織・人などの切り口で検討を進めます。まずは、小さく始めて、次第に大きく育てていきます。
(4) ICT環境の整備やセキュリティ対策は、より堅牢なものが理想的ですが、現状のものを活かして取り組むことも可能です。シンクライアント環境をすでに構築されていればこれを採用しますが、シンクライアント環境は導入及び運用コストが膨大となりますので、中小企業にとってはハードルが高まります。したがって、現状のものを利用した環境を考えます。例えば、ノートパソコンやタブレット端末を貸与し、会社の環境にWIFI接続をし、オフィス設置のPC(デスクトップ環境)を閲覧・操作する方式もあります。その際にVPNを導入し、リモートデスクトップツールを導入し、セキュティ対策を施します。比較的安価な導入が可能となります。
(5) テレワークでは、利用のルールを定め、就業規則に織り込む必要があります。業務の開始、終了などの労働時間管理などを明確に規定し、労働者の過重労働にならないように配慮する必要があります。また、発生コスト負担なども検討し規程に織り込む必要があります。
(6)その他従業員教育、試行運用など一連の準備段階が必要になります。

今までテレワークを導入した企業は、いずれも、従業員を大切にしている企業でした。テレワークによる働き方改革は、経営者の熱い想いと、従業員の高いモチベーションが、企業を発展の方向に導くモデルケースだといえます。皆さんも、是非、テレワークの導入をご検討ください。

(参考文献)
・テレワークで始める働き方改革 厚生労働省

(執筆者)
古賀 雄子(こが ゆうこ)

中小企業診断士、税理士。
山口県下関市出身。大学卒業後、金融機関にて、金融商品・信託商品の企画・運営、システム企画等数々の業務を経た後、小売業で管理会計・LSP・業務改革を経験。税理士事務所を開業し、会計・税務・経営等の総合コンサル等に従事。東京都、埼玉県をはじめ関東全域で、公的機関などの派遣専門家としても活動している。中小企業診断士、税理士。