いまや人々の生活になくてはならない存在となったコンビニは、これまで特定地域に集中出店する、いわゆるドミナント戦略によって、その規模を拡大してきた。
 その中でしのぎを削るコンビニ各社は、日々変化する生活者ニーズを売場に反映していくことに余念がない。たとえば、利便性のニーズに対しては、ATMの設置や、宅配・受取サービスの導入で応えた。さらに、イートインスペースの設置で「買ったその場で食べられる環境」を提供した。また、昨今の健康意識・糖質制限ブームに対応し「サラダチキン」を大陳するなど、販売する商品構成もニーズに都度対応し変化させてきた。
 このように、コンビニは人々の生活に密着し、ニーズ対応することで、その存在感を高めてきたのである。

1.コンビニの売場変化の一例

 昨今、有職女性や単身世帯の増加を背景に、食の外部化や中食の比率が高まっている。中でも、時間短縮ニーズや調理の簡便さから、冷凍食品の支持率は右肩上がりである(※1)。
 コンビニ業界においてその傾向は顕著で、事実、コンビニ最大手のセブンイレブンジャパンは、2017年に冷凍食品の売場を拡大した新フォーマット店舗を投入した。結果、セブンイレブンの冷凍食品の売上は、10年前に比べ倍以上にまで成長している(※2)。
 そして、コンビニ各社の冷凍食品売場の拡大を後押ししそうなのが、2019年10月の消費税率アップに合わせて導入された、軽減税率に伴って発生している「イートイン脱税」の横行である。

2.「イートイン脱税」とは?

 今回の軽減税率のポイントは、ほとんどの商品の税率を10%へ引き上げる一方、飲食料品や定期購読契約をした新聞等の一部商品の税率を8%で据え置くという点だ。そのため、飲食料品については、事前の買いだめや事後の買い控えはあまり発生せず、大きな混乱はなかったようだ。
 しかし、同じ飲食料品でもイートインスペースが絡むと、話は別だ。10月1日の導入当日から、SNS上で「イートイン脱税」というワードが話題になるなど、戸惑いが生じている。飲食料品をテイクアウトする場合は税率8%であるが、イートインスペースで飲食する場合は10%となる。しかし税率は、基本的に会計時の客の自己申告によって決まる。そのため、客がテイクアウトを申告し8%で会計後、気が変わったとイートインスペースを利用した場合、差額の2%分は支払わずに済んでしまう。これが「イートイン脱税」と言われる行為であるが、国税庁すら「倫理上は別の観点だが」、「制度上の問題はない」とある意味「見逃している」状況だ。

3.軽減税率とイートインスペースの関係性

 昨今はコンビニでも、イートインスペースを設ける店舗が増えている。その理由として、「買ったその場で食べたい」・「家庭でゴミを出したくない、その場で捨てたい」といった生活者ニーズへの対応、またファストフードや喫茶店へ流れる客のつなぎ止め策といったことが挙げられる。すなわち、売上効率向上を目的にイートインスペースは設置されている。
 しかし今後も「イートイン脱税」の横行が続けば、たとえば「10%精算済みシール」を逐一貼り付けたり、「脱税」疑惑について「容疑者」一人ひとりをヒアリングしたり・・・などといった対応が必要となり、店員の作業効率は低下し負担は急増することになる。
 人手不足のなか、店員の数を増やすことは難しい。よって、軽減税率導入後のイートインスペースは、むしろ売上効率を低減させてしまうのではないか。
 実際には、コンビニ各社は、今後数か月のイートインスペースの売上効率を見極め、廃止あるいは存続を決定するのであろうが、筆者は廃止が大方の流れになっていくと考える。
 なぜなら、存続によって売上低減リスクに加えSNSリスクをも抱えることになるからである。たとえば「イートイン脱税」の「容疑者」が店員とのやりとりをSNSに流し、コンビニチェーン自体が炎上、といったリスクが常につきまとう。このように考えると、大きなリスクを伴うイートインスペースは廃止が必至であろう。

4.今後のコンビニの売場変化について

 それでは、廃止したイートインスペースをどう活用するのか?ここまでの議論を踏まえれば、現在、売上成長性の非常に高い冷凍食品売場への改修という線もあり得るのではないか。つまり、今後数年のうちに、コンビニに入ればすぐに冷凍食品売場、という店舗フォーマットがスタンダード化する、という可能性も十分に考えられるのである。
 このようにコンビニの売場戦略には、世の中の動きが反映されていて興味深い。今後の店舗フォーマットの変化にも注目していきたい。

※1 出典:総務省家計調査(総世帯)
※2 出典:日経MJ「ヒットの裏側」2019年4月22日