1.はじめに

 みなさんご存知かとは思いますが、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障碍者・知的障碍者・精神障碍者の割合を法定雇用率以上にする義務があります。現在、民間企業の法定雇用率は2.2%となっており、従業員を45.5人以上雇用している企業は、障碍者を1人以上雇用しなければならない、と義務付けられています。
 そして、この雇用義務を履行しない事業主に対しては、ハローワークから行政指導が行われます。
 このようなルールにのっとり、多くの民間企業が障碍者雇用に取組んでいます。しかし、その取組みの内容はあまり公表されていないように感じます。障碍者雇用を進めている企業では実際にどのような取組みをしているのか。私が社外取締役という形で携わっている企業において、企業として初めて雇用した障碍者Aさん(知的障害、療育手帳C)の採用から、職場への定着およびスキルアップのための施策を紹介したいと思います。

2.紹介企業の概要

 設立が平成17年、業種は住宅用設備の製造業で、主な業務内容として、住宅用コンクリート外壁パネルの製造、仕分、塗装、出荷および付随業務を、住宅メーカーの下請けで行っています。
 平成30年度において従業員数は109名おり、その内の障碍者の種類と人数は、知的障碍者が5名、身体障碍者が3名の計8名となっています(男女比率は男7名・女1名)。

3.障碍者雇用に至った経緯とAさんを選んだ理由

 1点目の経緯として、従業員数が50名を超えたために障碍者を1名以上雇用する義務が発生したため。2点目の経緯として、生産量の増加にともなう付随業務における人員補充のため、の2点です。付随業務は軽作業が中心のため、障碍者でも対応することは可能だと考えました。 
 続いて、Aさんを選んだ理由は、面接時における言葉遣いや態度など、健常者と比べても全く遜色がなかったからです。そのために、ためらうことなく採用をしました。
 このAさんが障碍者雇用の1人目であったことが、当企業において障碍者を雇用することへの抵抗を払拭し促進させる、大きなきっかけになったと言えます。

4.職場への定着のための施策について

 Aさんが職場に定着してもらうために、3点の施策を実施しました。
1点目が、Aさんと同じ職場に、障碍者を身内に持つ年配の女性社員を配属させました。これにより、今まで障碍者と接したことのない従業員にとって、障碍者に対しての接し方のお手本となりました。加えて、この女性社員が自発的かつ積極的に、障碍者が社会で働くことの重要性を社内で伝えてくれました。それにより、Aさんの働きやすい雰囲気が作られました。
 2点目が、今後の夢や目標、やりたいことなどをAさん自身に考えてもらいました。これにより、夢や目標を叶えるためにはお金が必要であり、そのお金を稼ぐためには働く必要がある、ということを理解してもらいました。
 3点目が、業務の内容をAさんに合わせました。これは、既存の業務から本人が苦手と考える作業を除き、Aさんに合わせた業務を設けました。そして、その除いた作業は他の社員でフォローする体制を作りました。
 これらを実施することでAさんの職場への定着が図れました。

5.スキルアップのための施策について

 Aさんのスキルアップのために、3点の施策を実施しました。
 1点目が、作業部署の異動のタイミングに配慮しました。これは、現状の作業部署から新しい作業部署へ異動する際、一気に異動させるのではなく、研修育成期間を設け、異動させるタイミングをAさんに確認を取りながら徐々に異動をしました。これにより、Aさんおよび新しく受け入れる部署において、それぞれの負荷が軽減されました。
 2点目が、Aさんのモチベーションを向上させ、できる・やりたいという意識を育みました。そのために、Aさんの仕事に対して常に褒めることを実施するとともに、注意する際もただ否定するのではなく、一度Aさんの行為を認めて、それからどうして注意されているのかを丁寧に説明しました。
 3点目が、適材適所の配置となるように努めました。そのために、Aさん本人や教育担当者、部署の責任者などと面談を繰り返し、Aさんの能力を見極めるとともに、配置先を皆で考え検討しました。これにより、その職場で働いている健常者と遜色なく活躍をしています。

6.最後に

 Aさんを雇用するまでは、障碍者と共に働くということに向き合ってきませんでした。しかし今は、Aさんをはじめ共に働いている障碍者全員、企業にとって大きな人財となっています。一人一人の個性を認めることで、必ずその人に合った仕事はあります。
 障碍者の多くが働きたい・自立したいと思っています。その思いに応えるのも企業の責務だと考えます。

(執筆者プロフィール)

小林 淳
専修大学卒業後、実家の㈱サンワークに入社。入社後、大手住宅メーカーの製造請負を立ち上げる。専務取締役として生産・品質管理、採用、人事労務を中心に従事。現在は坂東公認会計士税理士事務所にて、地元を中心とした中小企業の経営や税、事業承継など幅広い相談に対応。中小企業診断士、事業承継士、第一種衛生管理者。