中小企業の皆様
BCP(事業継続計画)という言葉をご存じですか?
BCPは既に策定済みですか?
BCPの内容をご存じない方、知っているけれどまだ手を付けられていない方も、ご安心ください。
これから、「明日からできるBCPの進め方」について、わかりやすく解説します。

1. 自然災害などのリスクの増大とBCPの効果

日本全土で、地震や大雨などの自然災害による被害があとを絶ちません。
日本では、東日本大震災、平成30年7月豪雨(西日本)、北海道胆振東部地震、熊本地震などによる甚大な被害が記憶に新しいところです。将来的にも、首都直下地震や南海トラフ地震の発生が高い確率で予想されており、中小企業においても、これらのリスクを考慮した事前対策が欠かせない状況です。

自然災害などが中小企業にもたらす具体的な被害とは、どんなものなのでしょうか?
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「中小企業の災害対応に関する調査」(2018年12月)によると、頻度の高い順に以下の項目があげられています。

  • 出勤不可
  • 売上減少
  • インフラ途絶による被害
  • 建物の破損・浸水

これらの被害が事業継続に著しい困難をもたらすことは、容易に想像できます。

このような被害を防ぐには、まず何から始めればいいのでしょうか?
それは、あらかじめ有事の際の計画を立てておくことです。

一般的に、事業者が、自然災害、感染症、サイバー攻撃などのリスクに備えるための「事業継続計画」を、Business Continuity Plan、略して「BCP」と呼んでいます。
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」によれば、BCPとは、「企業等が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」をいいます。

このBCP導入の効果を図示したのが、図表1です。

図表1 BCP導入効果のイメージ

出典:「中小企業BCP(事業継続計画)ガイド~緊急事態を生き抜くために~」中小企業庁(2008年3月)

BCP未導入の事業者は、リスクに対する備えができていません。
そのため、緊急事態が発生すると、以下のような事態に陥る可能性があります。

  • 中核事業の復旧に長期間を要するうえ、操業度が100%まで復帰しない(=紫色)
  • 場合によっては復旧ができずに廃業に至る(=赤色)

その一方、BCP導入済みの事業者は、以下のように操業度合いの回復度が異なります。

  • 目標復旧時間内に中核事業を目標操業度まで復旧できる(=青色・緑色)
  • 同じ災害によって廃業や事業縮小した同業者分の需要を取り込んで、一定期間後には、操業度が100%を超過することもあり得る(=緑色)

2. 中小企業でBCP策定が大企業より遅れている理由

中小企業庁では、2006年から「中小企業BCP策定運用指針」や「中小企業BCP(事業継続計画)ガイド」などを公表し、多くのBCP様式類(記入シート)も提供してBCP策定を呼び掛けてきています。
しかしながら、帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2023年)」によると、中小企業におけるBCPの策定率は大企業に比べて遅れています。同調査上、BCPを策定している割合は、大企業の35.5%に対して、中小企業は15.3%に留まっている、との結果が出ています。

策定が遅れている主な理由として、以下の4点があげられています。

  • スキル・ノウハウがない
  • 人材や時間を確保できない
  • 実践的にすることが難しい
  • 自社のみでは効果が期待できない

3. 「事業継続力強化計画(略称:ジギョケイ)」策定のすすめ

そこで、中小企業庁は、「BCPはじめの一歩」として、従来のBCPよりも簡素で効果的な計画を作りやすい「事業継続力強化計画認定制度」をスタートさせました(図表2参照)。

図表2 事業継続力強化計画(略称:ジギョケイ)の概要

出典:中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要」(2023年4月1日版)

具体的には、中小企業が自社の災害リスクを認識し、防災・減災対策の第一歩として取り組むために必要な項目を盛り込んだもので、当該計画を経済産業大臣が認定する制度として、2019年7月に始まりました。

認定を受けた中小企業は、以下の支援などを受けることができます。

  • 防災・減災設備に対する税制優遇
  • 低利融資
  • 補助金の加点措置

その特長は次の3点です(図表3参照)。

  • 従来のBCPよりも簡易に作成できること
  • 策定の手引きを見て、自分で書けること
  • 事業体単独の計画(=単独型)では効果が弱い場合には、他の事業体と連携した計画(=連携型)が策定できること

先述した、中小企業がBCPを策定しない4つの主要因を改善することで、従来のBCPよりも取り組みやすくなっています。

図表3 事業継続力強化計画の特長

出典:中小企業基盤整備機構「事業継続力強化計画オンラインセミナー」資料

策定の手引きのイメージは、図表4のとおりです。こちら(※)に豊富な文例が記載されており、それらの文例を自社に合わせて改変利用することで、特別な知識がなくても策定が可能です。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

図表4 策定の手引き

出典:中小企業基盤整備機構「事業継続力強化計画オンラインセミナー」資料

計画(申請書)全体のボリュームは、単独型計画の場合、A4サイズで6ページ程度です。そのため、大きな負担感なく、BCPの「はじめの一歩」を踏み出せるものとなっています。(図表5参照)。

図表5 申請書のボリューム

出典:中小企業基盤整備機構「事業継続力強化計画オンラインセミナー」資料

BCPを策定していない中小企業の皆様は、ぜひ、この「事業継続力強化計画(略称:ジギョケイ)」の策定にチャレンジしてください。以降は、策定した計画に対して、定期的な訓練と見直しを行っていきます。そして、より効果の高いBCPへとブラッシュアップしていきましょう。

多くの中小企業がこの活動を推進することで、日本国の一層の強靭化が図られていくことを期待しています。

中小企業診断士 轟 幸夫