中小企業経営者が「自社の取引先(顧客)の状況を把握し、適切に管理すること」は、ビジネスの安全性や信頼性を確保するための有効な手段の一つです。また、これを一歩進めると、中小企業を「お客様」とする中小企業診断士にとっても、これらの知識や手法は、お客様への助言ツールとして参考になると思います。近年、特にコロナ禍を経て、ビジネス環境は大きく変動しました。世の中の倒産は今後急増が予想される中、お客様が激化する競争環境において勝ち残るためにも、取引先の管理の重要性はより高まっていくのではないかと考えます。(以下図表1、ご参照)

1. 取引先を管理することのメリット

冒頭の倒産急増の状況に加え、VUCA時代[Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)]とも称される現代において、取引の電子化やDXの推進により、取引手段の多様化・複雑化が進んでいます。そのような時代を生き抜く上での「取引先管理」は以下のようなメリットがあると考えられます。

(1)リスクの最小化

取引先の信用情報を定期的にチェックすることで、経済的困難に陥るリスクを持つ取引先を早期に特定し、それに伴うリスクを最小化することができます。未払いのリスクや取引停止のリスクを予防できるため、自社のキャッシュフローを安定させる手助けになると思います。

(2)長期的な関係の構築

信頼関係を築くためには、双方の状況やニーズを理解することが重要です。取引先管理を通じて、お互いのビジネスモデルや市場動向を理解し合うことで、長期的なビジネスのパートナーシップを築く土台になりえると考えます。

(3)効果的な営業戦略の策定

取引先の業績や動向を把握することで、新しい商材やサービスの提案、営業戦略の方向性を策定する一助になりえます。

図表1: 最近2年分の倒産件数・負債総額の推移

出典:帝国データバンク 倒産集計一覧の情報から筆者作成
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/index.html

2. 取引先管理の主な方法について

筆者自身、総合商社のサプライチェーン管理を担当し、年間数千件の国内外の取引先やビジネスを管理部門の立場から関わっていますが、これらの経験をもとに、お客様である中小企業が今すぐに出来る取引先管理手法を紹介したいと思います。

(1)取引先の信用調査

一般的に、顧客である取引先から決算書等の情報を直接入手することは難しく、信用調査機関から調書を購入し、活用することが信用力判断の現実的な手段になると思います。信用調査レポートは概要情報のみであれば一件2千円弱、調査レポートは一件1~2万円前後で入手可能です。

信用調査機関ですが、国内においては帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)等の大手調査機関に加え、各業界に特化した専門調査会社が存在し、海外では世界最大手のダンアンドブラッドストリートが発行する、ダンレポート(ダンレポ)など、取引先の場所や業界に応じた専門的な情報を提供しています。

入手した調書を見るポイントですが、各調書が提供している「評点」(ダンレポの場合はスコア情報)、財務内容、業績動向などが有用で取引先の現状や将来の安定性を判断するための材料となります。また、最近の業績動向などの情報は内容が充実しており、自社の事業戦略の参考情報として活用することも可能です。

図表2:東京商工リサーチが提供する「評点」基準

出典: 国内企業調査レポート(TSR REPORT) 企業の総合評価
https://www.tsr-net.co.jp/service/national/evaluation/index.html

(2)お客様の客観情報としての活用

調書は一般的にお客様の取引先を見るツールとなりますが、お客様自身の調書を確認されることも効果的な方法ではないのでしょうか。信用調書はお客様の顧客も参考にしている場合が多く、中小企業診断士にとってもお客様がどのように見られているかを客観的に確認できる資料として参考になると思います。

(3)取引ぶりの確認

近年、従来の手形決済から、電子記録債権(でんさい)の導入や振込み方式の普及が進み、代金支払の決済手段は多様化しています。これにより、取引先の支払い状況を常にチェックし、異常が発生した場合の対応方法を予め決めておくことがお客様の効果的な管理体制構築に繋がります。

具体的な方法として延滞リストの作成と対応策をあらかじめ定めておくことです。支払いの遅延は、取引先の資金繰りの問題を示唆する場合が多いため、延滞リストを作成し遅延情報を的確に捉えるとともに、延滞解決の早期対応に向けた具体的なアクションをルール化することが有効な手段となります。例えば30日延滞について督促状を出す等、延滞状況によって自動的に対応を決めておくなど、適切なアクションを迅速に取ることで、問題の拡大を防ぐことができます。

(4)信用保険の活用

最近、保険商品の開発が進み、売掛金の回収リスクをカバーする信用保険の活用が増加しています。特に、海外取引先とのビジネスでは、突如の破綻や未回収のリスクが高まります。信用保険は公的機関が提供する貿易保険(日本貿易保険/NEXI等)や民間保険会社においても、中小企業にも使い勝手の良い保険商品が提供されていますので、お客様が海外取引を行っている場合、信用保険を検討されては如何でしょうか。

3. 取引先管理の効果と将来展望

今回のコラムでは、簡易に取り組みが可能な取引先管理の手法を紹介しました。紙面の都合で、概要的な説明となっており、各項目のノウハウ、例えば信用調査会社の活用について、各社の特徴や調書の詳細な見方など、より踏み込んだ内容について、今後の執筆を通じ、お伝えしていきたいと考えています。

お客様が取引先への適切な管理を通じて、安全かつ効果的な取引先管理を実践し、関係性を強化していく一助となれば幸いです。

鶴田 親
中小企業診断士