1. はじめに 
~今の高齢化社会・格差社会はBlues(憂い)に溢れている

 「今日を生き抜け!明日に備えろ!」 これは音楽のジャンルであるBluesのメッセージです。
 19世紀後半、アフリカからアメリカ南部に連れてこられた黒人奴隷たちは、過酷な労働の合間に粗末な道具(楽器)でスリーコードを奏で、日々の憂い(Blues)を歌っていました。ちなみに、憂い(Blue)の複数形なので「s」が付き、「ブルーズ」と発音します。
 そして時代は変わって、現代の日本社会はどうでしょうか。
 9月の日銀短観によると、景況感は2期連続改善しているそうですが、街にはBluesが溢れています。高齢化社会、格差社会が加速度的に進むその先に、はたして私たちの幸せはあるのでしょうか。

2.統計からみた高齢化社会・格差社会の現状

 さて、15日、1日、25日。これは何の順番だと思いますか。
 これは、地方部中心のあるコンビニ(スーパー)チェーン店での1ヶ月における売上高の多い日の順番です。
 15日は年金支給日、1日は生活保護支給日、25日は給料日です。
 このデータこそが日本の社会構造の現状を物語っていると思います。
 高齢化社会とは、社会保障収入に依存する人たちが増加する社会です。総務省統計によると、65歳以上の人口が29.1%を占め、巨大な消費者層となりつつある中、その多くの人たちは公的年金が主たる収入源であり、中には生活保護を受給している人も増えています。
 一方で、日本の家計(個人)の金融資産は年々積み上がり、日銀資金循環統計によると、2023年6月末では2,115兆円と過去最高を更新し続けています(図表1)。そして驚くことに、その6割超が60歳以上の高齢者の資産とのことです(図表2)。
 この格差社会を否定するつもりはありません。資本主義とは本来こういうものです。しかし、この格差社会が拡大していく将来に、持続可能な社会があるとはどうしても思えません。

図表1 家計の金融資産

出典:「2023年第2四半期の資金循環(速報)」2023.9.20日本銀行調査統計局

図表2 高齢者に偏在する金融資産

出典:2023.5.2日本経済新聞

3.実体験からみた高齢化社会・格差社会の現状

 先日、所用で大阪に行ってきました。同行した方が「時間があるから、どこか大阪らしいところへ行きたい」というので、梅田の阪神百貨店地下のフードコートで名物“いか焼き”を食べた後に、通天閣のある新世界に向かいました。
 しかし、道を間違えてしまい、簡易宿所が集中する労働者の町“釜ヶ崎”(西成区)に紛れ込んでしまいました。
 “あいりん地区”と言われるエリアです。
 「昔に比べると、だいぶ綺麗になったし、治安も良くなった」と言われているそうですが、そこで目にしたのは驚きの光景でした。路上では怪しげな物が売られていますし、昼間から酔っぱらいの老人たちが地面に座り談笑しています。公園には、たくさんのホームレス風の集団も見かけました。目が合わないように速足で通り抜ける中、「一泊400円~500円」の簡易宿所看板や、「居酒屋で覚醒剤を売るな!」の看板には、さすがに驚かされました(図表3)。
 関西はBluesが似合いますが、それをはるかに超える衝撃でした。

図表3 釜ヶ崎で見かけた看板

出典:執筆者が撮影2023.9.9

4.今できることから着手しよう

 先日、書店で『幸齢者』(著者:和田秀樹)という本を見つけ、面白いタイトルなので購入してみました。著者は「高齢者は幸齢者になるべきだ。高齢者は我慢するな(マインド・リセット)。高齢者に優しい社会構造に変革すべし。そのために相続税率を100%にせよ」と言っています。
 これは以下の点からも大変面白いアイデアだと思います。

①消費力アップ=経済の活性化
 相続税率を100%にすれば、高齢の富裕層はお金を積極的に消費します(ショッピング、食事、旅行など)。財産を残したら全額を相続税として国に没収されてしまいますから。
②高齢者が幸齢者へ
 そうすると、マーケット・社会は高齢者をメインターゲットとし、高齢者の好みに合わせたサービスや商品が提供され、高齢者に優しい社会・インフラが整備されていきます。
③労働力アップ=国際競争力の向上
 一方、親の財産を期待していた若者たちは、当てが外れ自らたくましく働かざるを得なくなります。
④格差是正
 そして、国は(巨額の)税収アップ分を社会保障に回せます。毎月5日(年金支給日)や1日(生活保護支給日)まで、買いたい物を我慢している社会的弱者が、少しでも幸せを実感できる社会の実現を目指すことが可能となります。

 もちろんこれらを実現するためのハードルは相当高いと思いますが、著者なりに考え抜いたユニークな提言で大変興味深内容でした。そしてこの本を読んで気づいたことは、私たち一人一人が高齢化社会や格差社会と対峙し、高齢者が幸齢者になれるよう今できることから着手すべきだということです。もちろん私たち個々人で法律を変えたり、世の中の仕組みを変えることは簡単には出来ません。しかし、だからと言って何も考えず何も行動しないで、事態が改善することはないと思います。
 そこで私が提案したいのが、「フューチャー・デザイン」という取り組みです。これは、まだ存在しない将来世代の視点を取り入れて、社会的意思決定を行っていく考え方です。この手法は2012 年頃に始まり、その後いくつかの大学で研究が進み、既に一部の地方自治体では取り入れられ有効性が認められています。気候変動や財政、インフラの問題など長期的な諸課題に対処し、持続可能な社会を将来世代に引き継いでいくための仕組みをデザインする試みです。
 例えば、親が自らの食べ物を我慢し、その分を子供に与えることで幸せを感じることに共感する人は多いと思います。それを発展させ、「たとえ現在の利得が減るとしても、これが将来世代を豊かにするのなら、この意思決定や行動は正当性を有する」と定義し、社会の仕組みをデザインするものです。

図表4 フューチャー・デザインの概念


出典:「より良い未来のために、今できること考えよう 財務省フューチャーデザイングループ」

 そして、こうした手法は行政のみではなく、個人や企業の行動にも当てはまると思います。すなわち、現在の自分と将来の自分、現在の会社と将来の会社を俯瞰し、その視点から現在の行動を考えていくのです。
 私は個人的に、課題をこう考えます。老後に向けた資産形成や健康維持、会社としては人材育成、社会としては福祉や環境問題等です。些細なことであっても、今日から出来そうなことはたくさんありそうです。口で言うだけでなく、まずは実践したいと思います。
 そうした行動を個人から会社、さらに社会へと広げるにあたって重要となるのは、アライアンスだと思います。「努力は足し算、協力は掛け算」という言葉がありますが、「一人一人の行動」と「それに共感する仲間を増やすこと」で輪を拡げていけば、大きな力となっていくのではないでしょうか。

5.まとめ ~未来予想図

 私が長年勤務している保険会社では、何年も前から主力商品を死亡保障から生存保障(年金や医療等)にシフトしてきています。生きるための保険です。「国の社会保障制度は頼りにならないから自助努力すべし、長生きのリスクに対し自分の身は自分で守れ」と言われますが、現実はかなりシビアです。
 日本における“高齢者”の定義は65歳以上(“後期高齢者”は75歳以上)だそうです。私自身があと数年で高齢者(=年金生活者)に仲間入りしようとしている中、もう他人事では済まされません。そして自らの“未来予想図”を考えては、日々憂いを感じます。まさにBluesです。
 自らのフューチャー・デザインをイメージすると、将来の自分が「今日を生き抜け!明日に備えろ!」とわずらわしいほど訴えかけてきます。具体的には「リスキリングでDX知識を習得しよう。無駄使いをやめて貯蓄をしよう。お酒は控え適度な運動で健康に注意しよう」等々です。
 そして中小企業診断士としてのもう一人の自分は、「就業意欲のある高齢者へは雇用促進に向けた研修やマッチング、高齢者のスタートアップ企業支援、就業困難な高齢者へは配食サービス、不安に寄り添う心のケアサービス等へ取り組み、社会に少しでも貢献せよ」とささやきます。
 さて、皆さんは、高齢化社会と格差社会が加速度的に進む中、フューチャー・デザインをどう描きますか?
 自分だけでなく会社や従業員、社会のために今、何から取り組みますか?
 このコラムが、持続可能な社会づくりに関心のある方々、とりわけ経営者や中小企業診断士の皆さんに読んでいただき、少しでもお役に立てたなら幸いです。

中小企業診断士 相藤 晃一